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東京地方裁判所 昭和51年(特わ)1948号 決定

被告人 田中角榮 外四名

主文

一  検察官請求証拠目録甲一番号154ないし164のうち別表(一)記載の部分を証拠として採用する。

二  検察官請求証拠目録甲一番号154ないし164のうち別表(一)記載以外の部分については、その証拠調請求を却下する。

理由

目  次

序   結論と検討の順序について

第一章  本件証人尋問調書と刑訴法三二一条一項一号

第二章  いわゆる刑事免責(起訴猶予に関する意思表示)について

その性質と効力――証拠能力に及ぼす影響(収集過程の適法性・任意性)

第三章  米国裁判所に対する証拠調嘱託手続の適法性に関連する諸問題

刑訴法二二六条の要件――嘱託権限――関連問題――証拠能力に及ぼす影響

第四章  刑訴法三二一条一項三号の各要件充足について

公判供述不能の要件――不可欠性の要件――特信性の要件

第五章  採用部分と却下の部分について

伝聞性、不可欠性、関連性、必要性――副証の取扱い

序結論と検討の順序について

一  本件証人尋問調書の証拠能力に関しては、検察官、弁護人双方から多岐にわたつて問題が提起され、当裁判所はこれを逐一検討した結果、主文一項に掲げる部分を証拠として採用した。同部分に証拠能力を認めた理由は、刑訴法三二一条一項三号に該当する書面と判断したからである。また、主文二項に掲げる部分については証拠調の請求を即下した。それは同部分が刑訴法三二一条一項三号所定の不可性の要件を欠く、あるいは立証事項に対する関連性の観点から必要性がない、その他の理由による。

二  第一章以下に理由するところを分説するが、すべての論点につき、本件証人尋問調書の証拠能力の有無如何が我々の解決すべき問題なのであるから、その角度から、またその限度においてのみ検討論述することとする。

三  検討の順序は次のとおりである。

最初に、本件証人尋問調書の証拠能力の刑事訴訟法上の根拠につき、検察官は同法三二一条一項一号の類推適用ありと主張するが、その然らざる所以について論ずる(第一章)。

そこで、本件証人尋問調書が同項三号の要件を充足するかどうかが主題となる筋合であるが、それと同時に本件においては、右調書の作成過程における手続に関するさまざまの事象が違法かどうかについて多くの問題が提起されていることに注目しなければならない。すなわち、東京地方検察庁検事正のなしたいわゆる刑事免責――起訴猶予に関する宣明――をめぐる一連の検察官の措置、最高裁判所の宣明が違法かどうか、そもそも、本件においてなされた米国裁判所に対する証拠調の嘱託は許されないのではないか、本件において刑訴法二二六条の要件はあつたか等々であり、またこれに関連してその他の手続違法や証言の任意性の問題が提起されている。これらは、概ね本件証人尋問調書を証拠として収集する過程において違法があつたかどうかということ及びそれに関連する問題であり、当裁判所の関心は、右の手続過程において同調書の証拠能力に影響するよう違法があつたかどうかという点にある。

従つて、その観点から第二章、第三章においてこれらの問題(関連問題を含む)を採り上げて検討する。

然る後、刑訴法三二一条一項三号の各要件が充足されているかどうかについて、「国外にいるため公判期日等で供述不能」の要件、「不可欠」性の要件、「特信性」の要件の順序に検討を進める(第四章)。

最後に前記採用部分について立証事項(要証事実)の如何により伝聞供述となりうるものがあるので、その点についての説明や副証についての説明及び前記却下部分についての理由説明を行う(第五章)。

以上の順序により検討、説明をした次第である。

第一章本件証人尋問調書と刑訴法三二一条一項一号

一  本件証人尋問調書につき、検察官は、第一次的に、刑訴法三二一条一項一号所定の裁判官面前調書に準ずるものとして、同号の要件によりその証拠能力の有無を判定すべきであると主張する。

その理由として、

(一)  本件証人尋問が嘱託をしたわが国裁判官の証人尋問を施行する権限に基づいて、同裁判官のために行われ、

(二)  その手続も、わが国裁判官の面前でなされるものと全く同質であるうえ、

(三)  本件証人尋問手続を主宰したケネス・N・チヤントリー(以下「チヤントリー」という)は、アメリカ合衆国(以下「米国」いう)カリフオルニア州で裁判官として裁判を行う資格を有し、その資格、権限及び本件における立場において、わが国裁判官にほぼ匹敵する者であるといえること

等を勘案すれば、本件調書が、同号所定の裁判官面前調書の作成過程におけると同程度の高度の信用性の情況的保障のもとに作成されたものであることを認めることができるから、同調書については、同号の裁判官面前調書に準ずるものと評価できるというのである。

二  ところで、本件各証拠によれば、

(一)  本件証人尋問手続は、昭和五一年五月二二日、東京地方検察庁検察官の証人尋問請求及び嘱託の申立により、東京地方裁判所裁判官が刑訴法二二六条に則り米国の所轄裁判所に証人尋問の嘱託をし、右嘱託は、外交経路を経て、同国カリフオルニア州中央地区連邦地方裁判所に伝達されたこと、

(二)  そこで、同裁判所所長アルバート・L・ステイーブンス判事は、アメリカ合衆国法典二八編一七八二条(a)項に基づき、前記チヤントリーを本件手続における執行官(コミツシヨナー)に指名して証人尋問手続を主宰させることとしたこと(同所長はあわせて、同国司法省特別検事ロバート・G・クラーク及び同国連邦検事キヤロライン・M・レイノルズの両名を副執行官〔コ・コミツシヨナー〕に指名し、主として証人を尋問する任に当らせることとした)、

(三)  そこで、チヤントリーは、同法典一七八二条(a)項に基づく執行官として、証人尋問手続を主宰し、自ら証人らに宣誓させ、偽証罪の制裁を告知し、手続当事者の異議を裁定するなどして、証人尋問手続を施行し(もとより、その尋問はすべてチヤントリーの面前で行われた)、こうして作成された本件調書は、本件嘱託書が送付されたのと逆の経路をたどつて、東京地方裁判所裁判官に送付されたこと、

(四)  右チヤントリーは、一九六九年同国カリフオルニア州裁判官の職を退いたいわゆる退任判事であつて、なお同州憲法六条六項によれば、同州退任判事は、最高裁判所長官の指名によつて、個別の事件につき裁判官として裁判をする権能を行使することができるとされ、現に、チヤントリーは、本件証人尋問施行当時も年に数件の事件を同州裁判官として担当していたこと

等の諸点を認めることができる。

三(一)  そこで検討するに、たしかに本件証人尋問は、刑訴法二二六条所定の権限を行使するわが国裁判官(前記東京地方裁判所裁判官)の嘱託に基づいて行われたのであるから、嘱託をしたわが国裁判官の証人尋問を施行する権限に基づき、同裁判官のために行われたというを妨げないのであるが(なお同条所定の裁判官が、外国裁判所に証人尋問の嘱託をする権限を有することは、後記のとおりである)、同法三二一条一項一号は、「裁判官の面前における供述を録取した書面」と規定し、明らかに尋問手続自体が現実に裁判官の面前で施行されることを要求していると解せられるうえ、右法の趣旨を審及しても、法が同号所定の書面に高度の証拠能力を認めたのは、右書面の作成過程(主として、右書面に録取された供述のなされた過程)で、裁判官が、現に尋問手続を主宰し、供述をする者に(原則として)宣誓をさせて自ら供述を聴取し、自らも尋問することができるという情況の下に供述がなされたものであることを前提として、その供述に高度の信用性の情況的保障が存すると考えられたことに由来すると解するのが相当であるから、このような信用性の情況的保障の観点からすれば、わが国裁判官の面前で証人尋問手続が行われなかつた以上、その嘱託によりその権限に基づき同裁判官のために手続が行われたという検察官主張の事実自体は、本件書面に同号の規定を適用ないし準用しうるか否かを判断するにつき、さして重視するには足りない要因というべきである。

(二)  次に、本件尋問手続につき考察する。

まず、同号所定の裁判官とは、わが国法上の裁判官を指称するものであることはいうまでもないところ、本件尋問手続を主宰したチヤントリーはわが法上裁判官としての資格を有しないから、本件書面が本来同号の適用を受けるものでないことは明らかであり、検察官もこの点は争わないところである。そこで検察官は、前記一(二)(三)のとおり主張して、本件尋問の過程には、同号所定の裁判官面前調書の作成過程におけると同程度の高度の信用性の情況的保障があり、従つて本件調書には同号の類推適用が認められて然るべきであると主張するのであるが、

(1) 刑訴法三二一条は、いうまでもなく伝聞法則の例外規定であり、このことに鑑み、その類推解釈には慎重でなければならず、とくに同法三二一条一項一号所定の(わが国)裁判官については、憲法を含むわが法制上、その資格要件、権限、身分保障等にわたつて詳細かつ明確に規定されているのであつて、刑事訴訟法も、このような法体系全般にわたる裁判官の地位等を慎重に考慮したうえ、同号でとくに裁判官面前供述録書面の証拠能力について規定を設けたものと解されるから(そして、かかる観点からしても、当該供述が同号所定の「裁判官の面前における供述」に該当するためには、裁判官の法律上の根拠を有する権限の行使としてその供述聴取がなされることを要することはいうまでもない。)、同号は、供述に対する信用性の情況的保障を定型化して規定するにあたつて、その聴取に当つた者が右のような裁判官であることをその中核的要件としてとりわけ重視する趣旨に出たものと解すべく、この点についての類推解釈には親しまないものがあるといわざるをえない。

(2) のみならず、仮りに検察官の主張するように、前記一(二)(三)の諸点を考慮して同号の類推適用の可否を決するとすると、独自の司法制度の下にある外国裁判官について、その資格、権限等にわたつてわが国裁判官にほぼ匹敵するものであるか否か、さらに外国法下の当該手続において裁判官の果すべき役割についても、その裁判制度、その手続の刑事手続全体における位置、さらには慣行等を勘案してわが国の手続との同質性について明確な比較判断を遂げるには困難な面があることは否めないところである。してみると、検察官の主張する基準によつては定型的に明確な判断を保しがたいといわざるを得ず、不当な拡大解釈のおそれなしとしないから、この点からしても、類推適用の主張は妥当とはいいがたい。

(三)  以上のとおりであるから、当裁判所は、本件調書につき刑訴法三二一条一項一号所定の裁判官面前調書に準ずるものとして、同号の要件によりその証拠能力を判断すべきではないと考える。

そうすると、本件証人尋問調書に証拠能力を認めうる刑事訴訟法上の根拠としては刑訴法三二一条一項三号のみとなるから、以下には、専ら、本件調書が同項三号によつて証拠能力を認めうるものであるか否かの点について検討することとする。

第二章いわゆる刑事免責(起訴猶予に関する意思表示)について

一  事実経過の概要

本件証人尋問調書が証拠として収集される過程で各証人に対しいわゆる刑事免責の付与がなされた(起訴猶予に関する宣明がなされた)経緯としては、各証拠により次の諸事実が認められる。

本件証人尋問請求に際し、昭和五一年五月二〇日、検事総長は、本件証人コーチヤン、クラツター他一名(その当時は証人となるべき者。以下単に「証人」という)の証言内容及びこれに基づき将来入手する資料中に、仮りに日本国の法規に抵触するものがあるとしても、証言した事項については右証人らを刑訴法二四八条によつて起訴を猶予するよう東京地方検察庁検事正に対し指示している旨及びこの意思決定は自己の後継者を拘束するものである旨の宣明書を発し、同月二二日、東京地検検事正は、右の指示内容と同じく証人らを同法二四八条によつて起訴を猶予する旨及びこの意思決定は自己の後継者を拘束するものである旨の宣明書を発した。

同月二二日、本件尋問の請求を受けた東京地方裁判所裁判官は、これを米国管轄司法機関に嘱託するに際し、検察官の要請を容れ、「本件につき最終処理をする唯一の機関である日本国東京地方検察庁は、……各証人の証言内容及びこれに基づき将来入手する資料中に、仮に、日本国の法規に抵触するものがあるとしても日本国刑事訴訟法第二四八条によつて起訴を猶予する意思がある旨を証人に告げた上尋問されたい」旨の検察官の希望を右管轄司法機関に伝達し、米国国内法で許容される範囲内でできる限り右希望に副う措置をとられたい旨要請した。

右嘱託を受け入れた米国カリフオルニア州中央地区連邦地方裁判所により本件尋問を主宰する執行官に任命されたチヤントリーは、同年六月二五日、コーチヤンを同裁判所に出頭させて証言を命じたが、同人は日本国において刑事訴追を受けるおそれがあることを理由に証言を拒絶し、そのころ、クラツター他一名も同様証言を拒絶する意向を右執行官に表明した。その間、前記各宣明は各証人に告知されたが、同年七月六日、同裁判所判事ウオーレン・J・フアーガソンは右証言拒絶に関し、「証人らの証言録取をただちに開始すべきこと、すべての手続を非公開で行うべきこと、本件証人がその証言において明らかにしたあらゆる情報、また証言の結果入手される情報を理由として、日本国領土内において起訴されることがない旨を明確にした日本国最高裁判所のオーダー又はルールを日本国政府が当裁判所に提出するまで、本件嘱託書に基づく証言を伝達してはならないこと」を命令した。

同月二一日、検事総長は、先に発していた宣明書の内容を確認したうえ、改めて本件証人らに対する公訴の提起はしない旨確約するとの宣明書を最高裁判所に提出し、同裁判所は、同月二四日、同人らが将来にわたつて公訴を提起されることはない旨の宣明書を発し、同日その内容が前記連邦地方裁判所長ステイーブンス判事に伝達された。同判事は、右宣明書によつて、フアーガソン判事の命令が定めた条件が充たされたとして、証言の録取及びすでに尋問が行われたコーチヤンの四回分の証言調書の伝達を許した。爾後、証人らに対しては、適法に日本国におけるいわゆる免責が与えられたものとして証人尋問が行われ、本件証人尋問調書が作成された。

なお、本件証人尋問の嘱託にあたり各証人らの証言が求められている対象たる本件被告人らに関する被疑事実としては(要旨)「(1)被疑者(氏名不詳)数名(政府の閣僚、高官、国会議員)は、その職務権限に関して、丸紅株式会社の檜山、大久保、伊藤(及び全日本空輸株式会社の若狭)らからロツキード社の航空機L一〇一一等を全日空が購入運航することに便宜な取扱いをしてもらいたい旨等の請託を受け、これに関する謝礼の趣旨で供与されることを知りながら、昭和四七年一〇月から同四九年中ごろまでの間、数回にわたり多額の金員を収受した。(2)被疑者檜山、大久保、伊藤(及び若狭)は(1)記載のとおり被疑者(氏名不詳)に対し多額の金員を供与した」との事実を根幹とする贈収賄罪及び外国為替及び外国貿易管理法違反罪に関する事実があり、これに対応してコーチヤン、クラツターら証人自身につきその証言により将来明らかとなる可能性のある犯罪事実としては(要旨)「右日時において、檜山や大久保らに対し、同人らが全日空においてL一〇一一を購入運航すること等に関連して政府閣僚らに賄賂を提供することを了知しながら、ロツキード社の資金数億円を支払つた」とする事実を根幹として(以上検察官の本件東京地方裁判所裁判官宛証人尋問請求書による)、本件被告人檜山、大久保ら丸紅株式会社幹部との政府閣僚らに対する贈賄罪についての共犯及びこれに付随する外国為替及び外国貿易管理法違反罪に関する事実が想定されていた。

以上のとおりの事実が認められる。

二  いわゆる刑事免責の付与に関連して本件証人尋問調書につき、その証拠能力に影響を及ぼす違法があつたかどうかについて

(一)  弁護人は、要旨「(1)刑訴法二四八条は、どのような犯罪が成立するかが未だ明らかではなく、犯罪の軽重その他の情状も詳らかにしないまま将来に向つて起訴猶予処分を約束する権限を認めたものではない。本件起訴猶予の意思表明は右のような約束をしたもので違法である。(2)右意思表明は、これにより本件証人に刑事免責を付与し、証言を得ようとしたものであるが、(イ)日本法の下で刑事免責を付与しようとするには、起訴猶予の約束が取消撤回を許さない法的拘束力をもつものであることを要するところ、本件起訴猶予の意思表明にはかかる拘束力はないから本件証人らの自己負罪拒否特権を消滅させるに由なく、従って同人らに証言を強制することができなかつたのにこれを強制したこととなり、同人らの憲法三八条一項の権利を侵害したものである。(ロ)かかる免責措置は、取引に類する英米法上の便法をいつさい拒否し、百パーセントの正義実現を希求するわが刑事司法の伝統的根本理念に反し、憲法三一条に違反している。(ハ)日本の法廷で行う日本人に対する証人尋問では右のような免責を付与しえないのに、コーチヤン及びクラツターが外国人であり、また、尋問手続が米国で行われたが故にこれが付与された点及び同人らを免責して本件被告人らを起訴した点で前記免責措置は憲法一四条に違反している。」と主張している。

以下には、これらの主張に留意しつつ、本件証人尋問調書に関する証拠収集過程に、その証拠能力に影響を及ぼすような違法があつたかどうかについて検討する。

(二)(1)  前記の真実経過に徴すると、東京地検検事正は(コーチヤン、クラツター他一名らにも関連する前記被疑事実につき捜査を担当する東京地方検察庁の最高責任者として)、コーチヤン、クラツター他一名の証言を得るため、同人らにつき、わが国において刑事訴追を受けるおそれのない状態を招来し、その自己負罪拒否特権(憲法三八条一項、刑訴法一四六条)の行使を阻む目的をもつて、昭和五一年五月二二日付宣明書を発したのであるが、同検事正は、右の宣明書により、刑訴法二四八条を援用し、前記三名に対し、その証言内容に関し将来犯罪の嫌疑明白となつたときにおいても公訴提起を猶予する旨の意思表示をなしたことが認められる。

ところで、検察官は、犯罪の嫌疑の存在が明白である場合でも、裁量により、該犯罪につき公訴を提起するかどうかを決する権限、いわば訴追裁量権を有する(刑訴法二四八条)。右訴追裁量権の行使は、通常は、捜査の結果犯罪の嫌疑が明らかとなつた時点において、刑訴法二四八条に規定する犯人の性格、年令、環境、犯罪の軽重、一般的情状、犯罪後の情況その他あらゆる事情を考慮のうえなされるものであるが、本件では東京地検検事正は、捜査がなお追行されている過程中の時点において(それは本件被告人らに対する前記被疑事実に関する捜査ではあるが、同時に各証人に対する前記各被疑事実に関する捜査でもある。)、将来、当該犯罪の嫌疑が明白になった場合を想定したうえ、本件特有の事情を考慮して訴追裁量権を行使し、その想定の場合にも公訴提起を猶予する旨の意思決定をなし、その旨の意思表示をなしたものというべきである。そして、これに付随する、その意思決定が後継者を拘束するものである旨の宣言は(その法的効果については後述)、右表示内容を、今後の事情の変化によつてもくつがえし得ない性質のものとする意図を明示したものと解せられる。

しかして検事総長は(全検察官の指揮監督権者として)、同月二〇日付宣明書により、東京地検検事正に対して前記趣旨の意思表示をなすべき旨指示をなしたことを確認し、この指示内容を将来ともくつがえし得ない性質のものとする意図を明示し、さらに同年七月二一日付宣明書により、右検事正及び検事総長の措置を確認し、将来とも右各措置の遵守されるべきことを最高裁判所に対して確約した。検事総長の右二回の宣明書のうち、前者は、東京地検検事正のなした意思表示が公訴権を行使する検察官全体の意思によるものであることを示したものと解すべく、後者については、その全経緯からして当該意思表示内容そのままの遵守を最高裁判所に対して確約したものとみるべきであつて、後者の末尾にある「公訴を提起しないことを確約する」という文言についても、前記の「起訴猶予」に関する意思表示と別異のものを示すと解すべきではない。

最後に、最高裁判所は、右検事総長の確約までの経緯をふまえたうえ、同月二四日付で宣明書を発したのであるが、その内容を仔細に検討すると、それは、右一連の検察官の措置により、検事総長の確約が将来とも事実上遵守され、従つて東京地検検事正の意思表示どおり、前記各証人らが、証言及びこれに基づき入手される情報につき公訴を提起されることは事実上あり得ないという事実認識を表明したのにとどまるものと解すべきである。従つて、右最高裁判所の宣明により、前述東京地検検事正及び検事総長の意思表示の適法性ないし効力について、新たに付加するものがあつたとは考えられない。

(2)  さて、このような検察官の一連の宣明ないし意思表示が憲法、刑事訴訟法等に照らして適法として許されるものであるかどうかを論ずる前に、果して右意思表示の性質内容自体、所期の如く証人らの自己負罪拒否特権の行使を阻む効果をもたらすに足りるものであつたかどうかについて既に争いがあるので(たとえば前記弁護人の主張(2)(イ)の関連)、まず、この点につき検討する必要がある。

検察官の訴追裁量権行使による起訴猶予処分は、公訴権を消滅させるものでもなく、法律上、その後の起訴を不適法ならしめるような覊束的効力を有するものでもないと解すべきところ(最高裁第二小法廷昭和三二年五月二四日判決・集一一巻五号一五四〇頁最高裁大法廷昭和二六年一二月五日判決・集五巻一三号二四七一頁参照)、前記のような東京地検検事正の起訴猶予に関する意思表示も、その法的効力が右以上に出る理由は見出し難く、覊束的効力を有するものとは解せられない。さらに、前記のとおり、右意思表示には、その表示内容を今後の事情の変化によつてもくつがえし得ない性質のものとする趣旨で後継者を拘束する旨の宣言が付されているのであるが、このような宣言によつて直ちにその意図する覊束的効力が発生すると解すべき法的根拠は見当らないといわざるを得ず、将来、検察審査会が起訴相当の議決をなすことを妨げる法律上の理由はなく、その際、検事正がこれを参考とし、公訴を提起すべきものと思料すれば起訴手続をしなければならないこと(検察審査会法四一条)や法務大臣が検事総長に対する指揮権(検察庁法一四条)に基づいて本件証人らを起訴せよとの指揮をすることも法制度の建前上はありうるのであつて、前記検事正の意思表示により、本件証人らが将来起訴される可能性が法制度上全く考えられなくなつたとは直ちにはいえない。

しかしながら、他面、前記東京地検検事正の宣明のなされた昭和五一年五月二〇日当時における証人コーチヤン、クラツターらの地位についてみるに、同人らはいずれも米国に在住する米国人で、同年四月初・中旬ころ及び五月初・中旬ころに日本国検察官の米国内における事情聴取等任意の取調べに応じないという意思を表明しており、同人らが自発的にわが国を訪れ、わが国の裁判権を行使しうる領域内に入ることは全く期待しえない状況にあつたといえる(なお、その当時、米国との犯罪人引渡条約に基づき同人らの身柄引渡を強制的に実現することは不可能であつた)。

してみると、当時、同人らに対し公訴権を行使しうる事実上の可能性はそもそも皆無に等しい状況にあつたと認められる。

前記検事正ないし検事総長の意思表示ないし宣明は、右のような証人となるべき者らに対する公訴権行使が既に事実上不可能であった状況下においてなされたものであつたが、そのうち、東京地検検事正の前記意思表示は(法的覊束力のないこと前述のとおりではあるが)、各証人につき将来当該犯罪の嫌疑が明らかになつた場合でも公訴を提起しないという事実上の効果をくつがえし得ない性質のものとして保障するものであり、前記のように各証人に右意思表示が伝達され、米国の管轄司法機関によつて確認されたことにより、その旨を右の者ら及び米国司法機関に対し公に約束したことになつたものというべく、検事総長の二回にわたる宣明ないし最高裁判所に対する確約は、右検事正の意思表示が検察官全体の意思によるものである旨及びその意思表示が、訴追機関全体により将来とも遵守されるべきことを保障する旨を事実上動かし難いものとして宣言し、かつ、わが国司法権の担い手である裁判所(その代表としての最高裁判所)に対して公に約束したものである。

そうすると、各証人に対する公訴提起の法律上の可能性はともかくとして、前記のような公訴権行使の事実上の不可能性に加え、東京地検検事正、検事総長らのなした一連の措置によつて形成された事実状態には改めて注目しなければならない。すなわち、右の事実状態の下においては前記検事正、検事総長の意思表示ないし宣明に反する処分がその後継者によつて行われることは絶無であろうし、法務大臣も、もしこれに反する処分により招来される政治責任を考慮するならば、敢えてかかる処分を検事総長に対し又指揮することは事実上あり得ないと考えられ、また仮りに検察審査会で起訴相当の議決がなされたとしても、検事正は、その議決に拘束されるわけではないから、一連の経緯に鑑み敢えて公訴を提起しない措置をとるであろう。

以上の次第であるから、結局、将来における本件証人らに対する当該被疑事実に関する公訴提起を妨げる事実上の要因が、前記一連の措置により幾重にも累積して、同人らが起訴される事実上の可能性の全く存在しない状況が保障されるに至つたと考えられる。

(3)  ところで、証人にとつて、いわゆる自己負罪拒否特権は、自らが刑罰を科せられる根拠となる事実について供述を強制されない権利(憲法三八条一項、刑訴法一四六条)であるが、すでに有罪・無罪が確定し、あるいは公訴時効が完成している等、その供述により刑罰を科せられるおそれがなくなつた場合にはこの権利を行使して証言を拒むことができないと解すべきことは右特権の性質内容に照らして当然である。

しかして、前記のように、本件証人コーチヤンらが起訴される事実上の可能性が全く存しない状態が保障されている事情の下においては、同証人らは実質的には有罪・無罪の判決が確定している場合や公訴時効が完成している場合と同程度にその供述により刑罰を受けるおそれがない状態にあるということができる。コーチヤンら本件証人らがおかれた右のような状況は、たとえ、事実上の状態であるとはいいながら(後に検討するように、その状態は適法にもたらされたものである)、法的評価においても、これを右の判決が確定している等、法律上刑罰を科せられるおそれがなくなつた場合と同様に評価するのが相当というべきであり、してみると、その効果として同人に自己負罪拒否特権行使の余地はなくなつたものと解することができる。

けだし、実質的にみて、法律上起訴可能性のない場合と同視し得る事実状態が適法に招来されたとなれば、右のように解して右特権の実質的保障に欠けるところはないからである。

以上により、東京地検検事正、検事総長の一連の措置は、コーチヤンら証人の自己負罪拒否特権の行使を阻む効果をもたらすに足りるものであつたということができる。

(三)  次に、前記のように検察官(東京地検検事正、検事総長)の一連の意思表示ないし宣明によつてコーチヤンら証人の自己負罪拒否特権行使の余地がなくなつたものとして取扱い、その証言を強制したことが合憲・適法であるかどうか、ひいて本件証言調書の証拠能力に如何なる影響を及ぼすかについて検討する段階となるわけであるが、そもそも右の事象を同証人らの自己負罪拒否特権の違法な侵害の有無の問題として捉える限り、それはあくまでもコーチヤン、クラツターらの権利に対する侵害の有無であるのに止まり、本件被告人らの権利に対する侵害の問題ではない。自己負罪拒否特権を有する者(本件では証人ら)がこれを行使する場合(本件では証言を拒絶する場合)、第三者(本件では右証言を不利益に援用されるおそれのある被告人ら)が利益をうけることがあるとしても、それは反射的利益に止まると解すべきである。従つて、後者は前者の特権の行使・不行使につき、また特権の侵害について何らかの主張をする権利を当然には有するわけでなく、本件被告人らは、コーチヤン、クラツターら証人に対する自己負罪拒否特権の違法な侵害については、これを理由として本件証人尋問調書の証拠能力の欠如を主張する適格を、原則として、有しないといわなければならない。

ただ、右の特権を強制、拷問、脅迫ないし欺罔という態様において剥奪した場合やこれに準ずるような重大な基本的人権の侵害を伴い、あるいは虚偽誘発の危険が高い状況が存するなど不公正な方法によつて行われたときにおいては、その特権侵害によつて得られた供述を証拠として援用される関係にある者(本件における被告人)は、違法捜査の抑制ないし虚偽の証拠によつて処罰を受けるおそれがある等の観点から、証拠の許容すべからざることを主張することができる(主張の利益を有する)と解すべきである。

以下には、右の点を前提とし、弁護人の前記違憲・違法の主張を考慮に入れつつ検討を進めることとする(なお、付言するに、前記のような検察官の一連の措置によつて、本件証人らに対する訴追の可能性が法制度的には消滅していない点を捉えて、仮りにこれが特権の違法な侵害であると構成するとしても、右の法的訴追可能性は、抽象的に観念される程度のものに止まり、訴追の事実上の可能性の全くない状態が保障されていることは前述のとおりであるから、特権の違法な侵害は具体的にはないに等しい程度の軽微なものというべく、これを理由として本件証言調書の証拠能力に影響する違法ありということはできない。)。

(四)  前記のように検察官の一連の措置は、本件被告人らと共犯の関係にあるとされる各証人らにつき自己負罪拒否特権行使の余地を失わせ、証言を強制したものであるが、このような措置は、前記(三)に述べた観点からして、わが国法上許されるか。

たしかに、このように事件関係者のうち一部の者に対しいわゆる免責を付与して証言を強制することは、わが法制上これを予定した規定を見出し難く、わが国の法的価値基準、伝統的法感情にそぐわない感を抱かしめる一面を有することは否定し得ないところである。

とりわけ、これら一部関係者に対し証言と引きかえに訴追を猶予して刑事処罰による正義の実現を断念するものと構成して取引の観念を強調すれば不公正感を免れず、またかかる措置が起訴猶予を希求する者への利益誘導等虚偽誘発のもととなる要因を入り込ませる可能性を含むもので容認し難いと考える余地は十分に存するというべきである。従つて、現行法下わが法廷において、このような諸点に対する十分な配慮なしに、これらの者に対し、卒然として、いわゆる免責を与え証言させることは、一般的には違法の措置であるとの疑いを免れず、ひいてこのようにして取得された証拠に証拠能力を認めることにも疑問の余地があるというべきであろう。

しかしながら、個々の事件の具体的事情の下で必要性があり、このようにして証言を強制しても特段不公正感ないし虚偽誘発のおそれを生ぜしめない情況的保障のある例外的な場合には、かかる措置は適法なものとして許容し得ると考えることができる。そこで、この観点から本件をみるに、

(1) 前記のとおり、検察官がコーチヤンら各証人に対して公訴権を行使しうる事実上の可能性はそもそもないに等しい状態にあつたから、同人らに対し起訴猶予に関する意思表示をする反面本件被告人らを起訴したという措置に差別すべからざるものをことさら差別したという意味での非難を加える余地はなく、同じくコーチヤンらを訴追して刑事処罰をするという方向での正義実現の可能性がもともとないというに等しいのであるから、処罰の断念と証言を取引によつて引きかえにしたと感ぜられる場合とは事情を異にするものがあり、この点において刑事免責により不公正さをもたらす事情は、本件においては存在しない

(2) コーチヤンらはいずれも免責制度が確立している米国の国民であり、かかる制度に慣熟しているというべきであるうえ、免責によつて証言させる制度を是認し育くんできた同国社会の一員であるから、後記(3)の事情とも相俟つて、同人らに自己負罪拒否特権行使の余地を失わせ証言をさせても、特段、同人らの権利・利益を不公正に侵害した措置であるという法的感覚は生じない

(3) 本件証人尋問の行われたのが、従前から免責制度が確立しその健全な運用に努めてきたと考えられる米国においてであり、同国裁判所の手続による要請に基づいて本件のいわゆる免責が付与されたものであること、そこでの尋問手続には、宣誓と偽証の制裁の可能性、証人らの弁護士の活動、証人尋問についての諸規則の活用等もあつて、利益誘導等による虚偽誘発の防止は制度的・情況的に保障されていたこと、さらに、本件証人らは、起訴猶予の条件としてある犯罪被疑事実に対するきめられた内容の証言をなすべく強制されていたわけではなく、自由な内容の供述をなし得たものであつて、(後記のとおり)その任意性を疑う余地もないこと等に照らし、免責による証言についての不公正さや虚偽誘発のおそれをうかがわしめる情況は認められない

等の各事情が認められるのであり、かつ、後記(五)(3)で述べるような本件免責を必要とする事情があつたのであるから、これらの諸事情の下においてみるならば、前記のような検察官の一連の措置により本件証人らにその自己負罪拒否特権行使の余地を失わせ、証言を強制し、その結果得られた本件証言調書をわが国の法制の下で証拠として許容するにつき困難を感ずるような不公正さないし虚偽誘発状況はなく、また右措置を目して憲法一四条、三八条一項、三一条等に違反するものとはいうことができないと解するのが相当である(なお、以上のように本件につきわが国における一般的処理方式とは異なる特別な扱いがなされたのであるが、その取扱いに合理的な理由があると認められるから、これが人種による差別等憲法一四条違反の場合にあたらないことは多言を要しない。)。

(五)  さらに、前記のとおり本件においては東京地検検事正は、通常の場合と異なり、証人らに対し、捜査がなお追行されている過程の時点で、将来犯罪の嫌疑が明白になつた場合を想定してその訴追裁量権を行使し、起訴猶予の意思決定、その旨の意思表示をなしているのであるが、

(1) 前記のとおり米国人で米国に在住し来日の見込みもない本件各証人らに対しては、将来犯罪の嫌疑が明白となつても訴追できる可能性は事実上皆無に等しい状況にあつたこと

(2) 従つて、捜査の結果、将来犯罪の嫌疑が明らかになる時点を待つとしても訴追できない状況に変りはなく、なお、当時において未だ捜査過程にあるとはいいながら犯罪被疑事実の規模・輪郭については一応の想定はできる状況にあり、犯情や情状等についても一応の資料はあつたものというべく、将来の捜査の終局時における証人らに対する本件事件における位置づけについての展望は可能であつたと認められること

(3) 各証人の証言の獲得は、本件被告人らの前記被疑事実に関する国内で収集された証拠との関係や公訴時効との関係からしてその当時(昭和五一年五・六月ころ)の時点において必要性があつた反面、米国において証言を求めるためには刑事免責を付与することが不可欠であると当然見込まれたこと

(4) 前記(四)にみたように、米国の証人尋問の制度・運用の下においては、いわゆる刑事免責を付与することは、これがわが国法下に受け入れ難いような不公正さありとはいえない性質のものであること

等の諸事情があり、その本件特有の事情下において、ことに(3)の必要性の観点から訴追裁量権の前記時点における行使がなされたものというべく、かかる事情の下においてはその権限の行使には十分に合理的な理由があると考えられ、それが刑訴法二四八条に反する等違法であるということはできない。

(六)  最高裁判所の宣明書について

(1) 本件の証人らに対するいわゆる刑事免責付与の過程において、最高裁判所は、前記のとおり、昭和五一年七月二四日、宣明書を発したが、これにつき弁護人は、「最高裁判所の宣明は、行政権に属する検察権の行使にかかわりを持ち、三権分立の精神に反すると共に、受訴裁判所に指針を示し、裁判に重大な影響を与えかねないもので、司法行政としてはなしえないことをなした違憲の行為であるから、かかる宣明によつて獲得された本件証人尋問調書は違法収集証拠として証拠能力を否定されるべきである。」と主張する。

前にも述べたとおり、最高裁判所の右宣明には、東京地検検事正ないし検事総長の前記意思表示に法的拘束力を与えるものと解すべき根拠はなく、検事総長の前記確約が遵守され、本件証人らはその証言及びこれに基づき入手される情報により起訴されることが事実上ないとの事実認識を表明したに過ぎないものであつて、右意思表示ないし確約に事実上の増強的効果を付与するものでもなく、また、本件証人尋問調書の証拠能力につきあらかじめ判断を示したものと解する余地もない。従つて、その宣明には、三権分立の精神に反するとか、受訴裁判所の裁判に影響を与える等の違法は全く存在せず、右宣明は本件嘱託証人尋問手続の施行を円滑ならしめるため、またその限度においてのみ行われた司法行政作用として適法の範囲内の行為であつたというべきである。

(2) さらに弁護人は、「最高裁判所の宣明はフアーガソン判事の要求した『オーダー』又は『ルール』にあたらないものであるのに、ステイーブンス判事はこれにあたるとしてコーチヤンらに証言を命じたのであり、右命令は違法である。」と主張している。

本件嘱託尋問は、受託国たる米国の裁判権に基づいて行われたものであり、その手続は当然同国の法令に基づいて進められたのである。そして、フアーガソン判事もステイーブンス判事も、ともに合衆国法典二八編一七八二条(a)項の「人は法律上適用され得る特権を侵害して証言や供述をし、又は文書やその他の物を提出するよう強制されてはならない。」との規定に従つて手続を進めるためにこの規定を解釈し、結局ステイーブンス判事が、最高裁判所の宣明があつたことにより、本件証人らが右規定にいう特権を行使する余地がなくなつたとして、証言調書の伝達を許す等の最終的命令を下したことが明らかであるが、かかるアメリカ法の解釈適用は、専ら同国裁判所の権限に属し、わが国裁判所が、原則として、その適否あるいは当否を論ずべき筋合にないことはいうまでもないところである。もとより、米国裁判所による同国法の解釈適用の結果現実になされた手続にわが法制上受け入れ難い程度の違法があるかどうかは、わが国裁判所の判断権限に属することであり、この判断を怠ることは許されないのであるが、そのためには、右命令に関していえば、最高裁判所の宣明に至る一連の諸措置によつて、コーチヤンらに自己負罪拒否特権行使の余地はないとして証言を命じたことが、同人らの日本国憲法上の権利を違法に侵害したか否かに関し前記(二)ないし(四)等で論じてきた問題の検討で足りるのであつて、ステイーブンス判事の右最終判断に至る過程でフアーガソン判事のした要求に最高裁判所の宣明が合致するかどうかといつた問題を米国法に照らして検討することは、全く不必要なことである。もつとも、米国裁判所による同国法の解釈適用についても、その前提となる事実認識等に明白で重大な誤りがあり、そのため本来なされるはずのない法令の適用がなされたと認められるときには、その経緯如何によつては、入手された証拠が違法収集証拠として証拠能力を否定される場合のあることが考えられないではないが、本件各証拠に照らし、フアーガソン命令ないしステイーブンス命令の根拠となつた事実認識等に、格別、明白重大な誤りがあつたことをうかがわせるものは存在しない。

以上の理由により、最高裁判所の宣明とフアーガソン命令との不整合に関する弁護人の主張も採用することができない。

(七)  以上検討を加えたとおり、東京地検検事正の本件起訴猶予に関する意思表示、検事総長の宣明書、さらに最高裁判所の宣明書の発付等を経て証言命令に至る一連の手続過程には、本件証人尋問調書の証拠能力に影響するような違法は存在しなかつたということができる。

三  任意性に疑いがあり証拠能力を欠くとの主張について

弁護人は「最高裁第二小法廷昭和四一年七月一日判決・集二〇巻六号五三七頁は、不起訴約束に基づく自白は任意性に疑いがあつて証拠能力を否定されるべきであるとしているが、この判例は不起訴約束に基づく本証言にも妥当するものというべく、この点からも本件尋問調書は証拠能力を欠く。」と主張している。

弁護人の挙げる右判決は、「被疑者が起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してなした自白は、任意性に疑いがあるものとして証拠能力を欠くものと解するのが相当である。」と判示している。この場合、自白が任意性を否定されるのは、起訴猶予にするとの誘引を与えられ、これと因果関係を有する自白が虚偽である蓋然性がきわめて高いことによると解されるほか、このような心理強制によつて自由な意思決定を害して自白させることに許し難い違法性が存するためとも解せられる。

ところが本件においては、証人らが求められたのは自由な証言であつて、自白あるいはきめられた内容の供述を求められていたわけではない。従つて、そこでは、起訴猶予の約束と因果関係を有する自白の場合に通常存すると考えられる虚偽誘発の可能性、自由な意思決定を阻害するとの違法性は存しないというべきである。

以上に加え、本件尋問が、前記のとおり、免責制度の確立し、免責を与えられた者が利益誘導などのため虚偽の証言をすることのないよう、厳しい偽証の制裁等の手段を整えている米国において、公正な第三者たる執行官の主宰の下、宣誓のうえ、種々の尋問法則に従つて行われたものであつて、虚偽の自白を排除する格別の方策が何ら講じられていない右最高裁判決の事案とは事情を異にすること、右判例の事案では、被疑者が身柄拘束中で、起訴猶予の約束が釈放につながり、自白との因果関係は緊密であつたこと、この事案では約束に反して起訴をした捜査官の背信行為の不当性という要素も当然考慮されていたと考えられること等の諸点に徴すれば、右判例は本件尋問手続の場合を律するには適切ではないといわなければならない。

以上述べたところに照らし、本件各証言にはいずれも任意性に疑いありとしてその証拠能力を否定されるべき場合でないことは明らかである。

第三章米国裁判所に対する証拠調嘱託の適法性に関連する諸問題

一  東京地方検察庁検察官の東京地方裁判所裁判官に対する刑訴法二二六条に基づく本件証人尋問請求が同条の要件を充たしているかどうかについて

(一)  前にも触れたところであるが、東京地方検察庁検察官の昭和五一年五月二二日付東京地方裁判所裁判官宛証人尋問請求書によると、本件捜査における被疑事実中には、(要旨)「(1)被疑者(氏名不詳)数名(政府の閣僚、高官、国会議員)は、その職務権限に関して、「丸紅」の檜山、大久保、伊藤、「全日空」の若狭らから、ロッキード社の航空機L一〇一一等を全日空が購入運航することに便宜な取扱いをしてもらいたい旨の請託をうけ、これに関する謝礼の趣旨で供与されることを知りながら、昭和四七年一〇月から同四九年中ごろの間、数回にわたり多額の金員を収受した。(2)被疑者檜山、大久保、伊藤、若狭は、(1)記載のとおり、被疑者(氏名不詳)に対し多額の金員を供与した。」との事実が含まれており(東京地裁裁判官の米国裁判所への嘱託書にも、なお要約されてはいるが同旨の事実が包含されている。)、これに対してコーチヤン及びクラツターは、同請求書によれば「右日時において、檜山や大久保らに対し、同人らが全日空においてL一〇一一を購入運航すること等に関連して政府閣僚らに賄賂を提供することを了知しながら、ロツキード社の資金数億円を支払つた」立場にある者とされ、この点を添付の資料によつて疎明したと認められるから、右両名は「犯罪の捜査に欠くことができない知識を有すると明らかに認められる者」に該当する。

(二)  そして右被疑事実及びコーチヤン、クラツター両名の前記立場よりすると、両名は、被疑事実中の(1)の被疑者に対し、檜山ら金員を供与したとされる者らと共に必要的共犯の関係、(2)の被疑者と金員供与に関し共犯の関係にいずれもなり得る者と解されるが、刑訴法二二三条一項にいわゆる被疑者とは当該被疑事実で指向された当該被疑者をいい、共犯又は必要的共犯の関係にある者を含まないと解すべく、従つてこのような関係にある者に関し刑訴法二二六条の証人尋問の請求をなすことは違法ではない。このことは、共犯の関係にある者であつても当該被疑者(被告人)との関係においては証人適格を有することに徴しても明らかである。

(三)  次にコーチヤン、クラツター両名に対し刑訴法二二三条一項の出頭を求める措置及びこれに対する拒否がなされたかどうかについてみるに、本件各証拠によれば、昭和五一年二月二五日、日本国政府は、駐米日本大使館を通じ、米国国務省に対し、両名(他数名)の供述を入手したい旨をあらかじめ通知してその了承を得、同年四月初・中旬ころ、東京地検検察官から司法省連邦捜査局を介し、ロツキード社主任弁護士を通じて右両名(他数名を含む)に対し東京地検派遣察官の事情聴取に応ずることを要請したがこれを拒まれ、同年五月初・中旬ころにも東京地検検察官から両名の代理人たる弁護士及びロツキード社の主任弁護士に両名の出頭方を要請したがこれまた拒まれたことが認められる。

右手続は、両名に対し検察官が刑訴法二二三条一項に基づき適法に出頭を求め(同条の対象者が外国にある場合の出頭要求の方法として右に違法の廉がないことは明らかである。)、両名がこれを拒んだことを示すものであり、これらの点において刑訴法二二六条の要件は充足されていると認められる。

二  本件は、コーチヤン、クラツター両名他一名に対する刑訴法二二六条の証人尋問請求の過程で、手続を主宰する東京地裁裁判官が検察官の請求により、米国管轄司法機関たる裁判所に対し当該証人尋問を嘱託したものである。

そこで、このような嘱託をすることが適法として許されるかどうかについて争いがあり、弁護人は、そもそも外国裁判所に対する証拠調の嘱託は刑事訴訟法上根拠がないから刑事事件については許されない旨、ことに刑訴法二二六条の請求を受けた裁判官がかかる嘱託をすることは違法である旨主張するので、以下この点について判断する。

(一)  刑事事件の公判裁判所が証拠調の過程において外国裁判所に対し証拠調の嘱託をする権限を有するかどうかについて

(1) 弁護人の指摘するように、刑事訴訟法には裁判所が外国の裁判所に対し証拠調の嘱託をすることができるとする明文の規定は存在しない。ところで、刑事訴訟法は、刑罰法令の適正な実現のため実体的真実の発見を重要な目的とし(刑訴法一条)、この実体的真実は訴追側・防禦側いずれのためにも追及されなければならない。しかして事実の認定は証拠によるべく(同法三一七条)、そのため、捜査及び公判の過程で各種の証拠を強制的に収集して事実の認定に供する方法が多く規定されているが、その証拠は、具体的事件の具体的事情如何によつては世界各地に散在する可能性があり(刑法二、三、四条の国外犯については当然そのことが想定され、国内犯についても現在の交通機関発達の状況を考えれば十分に予想されるところである)、わが刑事訴訟法の適用が日本国領土外においては外国主権によつて(その承認のない限り)制限されている以上、もし国外に重要な証拠が存在する場合には、本来の証拠収集方法を補うものとして、少くとも刑事訴訟公判の過程において、公判裁判所が、証拠所在地に主権を行使する外国の裁判所に対し証拠調の嘱託をすることにより、強制的に証拠を収集することが当然に予定されていると考えなければならない。もしそうでないとすると、裁判所は刑事事件につき実体的真実発見の使命を完うできないことになるのである(なお、事情の如何によつては被告人の利益のために不可欠な資料を入手できない場合も生じ得るであろう。)。

(2) 「外国裁判所ノ嘱託ニ因ル共助法」一条は、「裁判所ハ外国裁判所ノ嘱託ニ因リ民事及刑事ノ訴訟事件ニ関スル書類ノ送達及証拠調ニ付法律上ノ輔助ヲ為ス」とし、同法一条ノ二は「法律上ノ輔助ハ左ノ条件ヲ具備する場合ニ於テ之ヲ為ス」としてその六号は「嘱託裁判所所属国カ同一又ハ類似ノ事項ニ付日本ノ裁判所ノ嘱託ニ因リ法律上ノ輔助ヲ為シ得ヘキ旨ノ保証ヲ為シタルトキ」とし、外国からの嘱託による証拠調を実施するに際しては、その国がわが国の同様な嘱託を受け入れることの保証を条件としており、このことは、わが国の裁判所が刑事事件に関し外国裁判所に対し証拠調の嘱託をすることがありうること、ひいてわが国の裁判所がそのような権限を有することを間接に(当然の前提として)示しているということができる。

(3) 本件のような証人尋問の嘱託に関していえば、刑事訴訟法は同法に明文で規定された証拠収集方法によらない人証に関して作成された供述書又は供述録取書についても、同法三二一条一項三号において、一定の要件の下に証拠能力を認める規定を設けており、外国裁判所に対する証人尋問の嘱託によつて得られた供述録取書(証人尋問調書)については、少くとも同条項によつて証拠能力を取得する可能性のあることが予定され、少なくとも同条項によつて裁判所がこれを公判証拠とするかどうかを審査できる仕組みになつているから、刑事訴訟法は制度上、かかる資料を(捜査段階での証拠発見の端緒にとどまらず)公判の証拠として許容しうる道を認めていると考えられる。

(4) そして現にイタリア他四か国との間に刑事事件について、送達・証拠調につき司法共助の取決めがなされており、米国との間においてそのような取決めはなされていないが個別的な外交折衝による嘱託事例としては、昭和三一年二月ころ、東京地裁八王子支部が係属中の強盗被告事件について米国裁判所に対し証人尋問の嘱託をすることとし、外務省を通じその旨の嘱託書を米国裁判所に送付したものがある(右事例においては、結局、証人の所在が不明であつたため嘱託を取り消した。以上につき刑事裁判資料二二〇号参照)。

(5) 以上により、公判裁判所は、外国裁判所に証拠調嘱託をする権限を有するというべきであるが、その刑事訴訟法上の根拠としては、刑事公判裁判所の訴訟指揮権であると解せられる。

けだし、訴訟指揮権は、刑訴法二九四条ほか個々の規定において、刑事訴訟法上事項毎にその姿を現わしているが、本来、裁判所が訴訟の主宰者として持つ固有の包括的権限であり、裁判所は訴訟の具体的状況に当面して常にその適切な裁量により訴訟の合目的的進行をはかるように右権限を行使すべき職責を有するから、個別の規定がある場合に止まらず、法に明文の規定がない場合であつても、法の目的ないし構造に適合する限り、あるいはむしろ積極的にその目的を実現するためにその権限を行使して法の空白を埋める訴訟行為ないし事実行為をなすことが許されるものというべく、外国裁判所に対する証拠調の嘱託の如きは上述の理由により正にその運用に適する場面といえるからである。

(二)  次に刑訴法二二六条により証人尋問請求を受けた裁判官が外国裁判所に右証人尋問の嘱託をする権限を有するかどうかについて検討する。

前記のとおり刑事公判裁判所は、その訴訟指揮権に基づき外国裁判所に対し証拠調(証人尋問)の嘱託をすることができる。そして刑訴法二二六条の請求を受けた裁判官は、証人の尋問に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有するから(同法二二八条一項。従つて刑訴法一六三条一項により国内の他の裁判所に対し証人尋問の嘱託をすることもできると解すべく、この点に関する弁護人の消極説は理由がない。)、当該裁判官は、それが右法条の趣旨に反しない限り、外国裁判所に対し証人尋問の嘱託をすることができると解される。

ところで、刑訴法二二六条は、任意捜査における出頭・供述を拒んだ者に対し、裁判官が強制的権能(勾引、証言拒絶罪、偽証罪等)に基づき証拠(証言)の収集を行い、捜査及び公判のために適正な証拠保全の機能を果すことを目的とする(証拠保全手続として被告人・被疑者のためには刑訴法一七九条以下の手続が対応する。)が、国外に居住する外国人が任意に出頭しない場合は、かかる方法により証人尋問を施行することができず、他に証拠保全の方法はない。そして、証拠保全が、捜査・公判の適正な運営に対して有する重要性、ひいて前記のような刑事裁判における実体的真実発見の目的に鑑みると、かかる場合、当該裁判官がその訴訟指揮権に基づき右条項に準ずる証拠収集の方法として、外国裁判所に対し証人尋問の嘱託をし、証拠保全をはかることは、刑訴法二二六条関係条項の趣旨に反するものとは解せられず、むしろこれによく合致するものと考える。

以上の理由により、刑訴法二二六条により証人尋問の請求を受けた裁判官は、その訴訟指揮権に基づき、証人尋問の施行に準ずる証拠収集方法として、外国裁判所に対し証人尋問の嘱託をすることができると解する。

三  なお、弁護人は、本件のように、証人となる者の出頭拒否があり、かつ、公判準備・公判期日に出頭しないこと、従つて弁護人の反対尋問を受ける機会を持ち得ないことがあらかじめ判明している場合に、裁判官は刑訴法二二八条二項により弁護人らを尋問手続に立ち会わせて反対尋問の機会を与えるようにすべきであり、弁護人らを立ち会わせなかつたときは、(その手続が違法であるから)成立した証人尋問調書に証拠能力を付与し得ないと主張する。

しかしながら、同条項により弁護人らを(反対尋問のため)立ち会わせるかどうかについては、裁判官が捜査に支障を生ずるおそれの有無を勘案して健全な裁量により決すべき事柄である。

本件において、証人尋問の嘱託をするに当り、東京地裁裁判官は、被疑者らの弁護人の立会を禁止したうえで証人尋問を施行してほしいとの検察官の希望を適当と認めて米国裁判所へ伝達しており、同弁護人に立会の機会を与えなかつたのであるが、事案の性質を勘案するならば、右の措置を目してその裁量の範囲を逸脱したものとは到底いえない。この点は、コーチヤン、クラツターらが公判等に出頭する機会を持ち得ない点を考慮しても同様であり、弁護人ら主張の反対尋問の機会のない点については、証拠能力の問題ではなく信用性の問題に帰することは別に論ずるとおりである。

四  次に、以上一ないし三に判断した点を除き、本件で米国に対してなされた証人尋問嘱託の手続、これに基づく米国における証人尋問実施の過程における手続に関して、弁護人は種々違法の点ありと主張するのであるが、以下これらの主要な点につき本件証人尋問調書の証拠能力に影響を及ぼすような違法があったかどうかの観点から、本件各証拠に基づき事実を確定しながら検討を加えることとする。

(一)  前記の経緯でコーチヤン、クラツター両名(他にA・H・エリオツトについても同様であるが、以下省略する)に任意の取調に応ずることを拒まれた東京地検検察官は、昭和五一年五月二二日、右両名に対する証人尋問の請求、あわせて米国裁判所に対する証人尋問の嘱託の申立をした。右申立において、検察官は、証人尋問手続に関する一〇項目の要請事項を提出して嘱託書への記載を求め、その中には、東京地方検察庁は両名の証言及びこれに基づき入手する資料中に日本国の法規に抵触するものがあつても起訴を猶予する意思であることを両名に告げたうえ尋問されたい旨の要請が含まれていた。右申立を受けた東京地裁裁判官は、同日、右両名の証人尋問を米国裁判所に嘱託することを決定し、なお事案の性質を勘案して嘱託書に前記要請事項を記載し、右事項について米国裁判所に対し、米国法の許容する範囲でできる限りその希望にそう措置をとられたい旨要請して送付の手続をした。

弁護人は、右の裁判官の措置につき、請求当日、直ちにその嘱託決定をし、また、検察官の右要請をそのまま米国裁判所へ伝達したとして非難し、ことに起訴猶予の意思表示の伝達につき、わが法制上行い得ない方法による証人尋問をあえて外国裁判所に嘱託した違法がある旨主張するが、刑訴法二二六条による外国裁判所への嘱託証人尋問請求を受けた裁判官がその当日にその旨の決定をしたこと自体何らその決定の適否に影響するものではなく(なお、検察官の釈明〔昭和五二年一一月二四日付釈明書〕によれば、正式の嘱託請求がなされる以前からこの点に関し検察官と裁判官の間に事前折衝のあつたことがうかがわれるが、第一次的には請求者のための証拠保全を目的とする具体的手続過程での実務において、その目的を十分に達するため請求者との間に事実上の打合わせが行われたとしても特段に不都合の廉ありということはできない。)、また、本件手続は、適正に証拠を保全して第一次的に捜査官に提供することを目的とするところ、その証拠収集は、わが訴訟手続とは異なる法制度下での米国受託裁判所により行われるのであり、本件の場合に適用された合衆国法典二八編一七八二条(a)項中には「前記命令(註・国際司法共助による証言等をなすべき旨の地方裁判所の命令)には、証言(中略)をさせるに当り、その手続の全部又は一部を外国または国際司法機関の定める手続によるべきことを命ずることができる。」とあつて、受託裁判所の裁量により米国にとつての外国の手続による余地を認めているのであるから、嘱託手続を主宰する裁判官として、検察官が右の証拠保全の目的を達するために必要であるとして提示する事項につき、これを適当と認めた場合(これを適当と認めるについて、各事項を個々に検討しても不当の点はない。なおその一部については別に論ずる。)、これら各事項を米国裁判所に伝達して前記のとおり配慮を要請することは当然の権限の行使であり、前記起訴猶予に関する意思表示については、別項で論じたとおり、本件の場合違法ではないと解せられるのであるから、その伝達についても何ら違法としてこれをとがめる余地はないというべきである。

(二)  東京地裁裁判官からなされた証人尋問の嘱託は、適法な外交経路を経て米国カリフオルニア州中央地区連邦地方裁判所によつて受理され、爾後、同嘱託は合衆国法典二八編一七八二条(a)項(以下条文のみを示す)に則つて施行された。

すなわち、第二章でも一部触れたとおり、同条に則り、同連邦地裁所長の命令により、チヤントリー退任判事が執行官として、クラーク司法省特別検事及びレイノルズ連邦検事が副執行官としてそれぞれ指名され、コーチヤン、クラツター両証人はその面前で宣誓し、偽証罪の制裁を告知され、右手続を主宰する執行官の指揮の下で、主として副執行官の証人尋問嘱託記載の尋問事項に則る尋問に対し証言をした。同手続には証人のため弁護士たる代理人が立ち会つて証人を補佐し、適宜異議申立等訴訟行為をし、東京地検検察官堀田力・同東条伸一郎も列席して副執行官を補佐したが証人尋問は行つていない。

以上の手続は米国連邦法の諸規定に則つて行われたのであるが、外国の裁判所に証拠調を嘱託した場合、このように受託国の訴訟手続に則つて証拠調が施行されることは当然である。弁護人は、右米国における手続過程に、本件嘱託手続との関連において種々の違法があつたと主張するが、右米国における手続の適法性についてどの程度立入つて判断すべきかは一つの問題である。

この点につき、当裁判所は、右証人尋問の結果作成された証人尋問調書の証拠能力の有無に当面の関心があり、その証拠収集過程に証拠能力に影響を及ぼすような違法があつたかどうかの観点が重要である。すなわち、当裁判所は、右米国における手続過程の事象については、それがわが国の憲法上ないし刑事訴訟法上の価値基準に照らし受け入れ難い程度の違法性を帯有する場合に本件証人尋問調書の証拠能力に影響ありと解するので、その観点から検討の対象とすべきであり、またその限度においてのみ対象となるものと考える。

以下、他の箇所で論ずる点を除き、弁護人の指摘する主な点について順次検討する。

(1) 本件嘱託尋問手続の過程において、嘱託者である東京地裁裁判官が前記一七八二条にいう「司法機関」に該当するかどうかが争われ、この点につき前記連邦地裁ステイーブンス判事は、一九七六年六月一一日、(要旨)「日本で係属中の手続は、司法手続の一環をなすもので、いくつかの点で米国連邦裁判所の起訴陪審の手続に擬することができる。更に本件嘱託書は日本の裁判所の裁判官から発付されたものであるので、この手続は司法手続の一部を構成する。」という判断を示してこの点を肯定し、証人らの代理人の異議を棄却したことが読められるが、弁護人は、刑訴法二二六条の手続は捜査手続の一環であるから、右の東京地裁裁判官の地位についての判断は誤りであり、一七八二条は捜査の共助を含んでいない趣旨であるから、本件嘱託を受け入れた米国裁判所は同条の適用を誤つた違法を犯していると主張する。

そこで検討するに、なるほど本件刑訴法二二六条の手続は、第一次的に捜査のための証拠保全を目的とするものではあるが、保全された証拠が公判で用いられ得ることもあわせて予定されているのであり、一定の要件があるときに捜査官の請求に基づき、裁判官(裁判所又は裁判長と同一の権限を有する)が独自の判断に基づき請求の採否を決し、手続が適正に行われるようにこれを主宰して施行するものであり、本件の場合も、東京地裁裁判官が同条に則り、その要件を判断し、同条の証人尋問の施行に準ずる証拠収集方法として米国裁判所への証人尋問嘱託を採用し、右嘱託手続を主宰し、その名において米国裁判所への嘱託をなしたものであるから、右東京地裁裁判官が司法権発動の一環としてその権限を行使する地位にあることは疑いなく、然りとすれば、右東京地裁裁判官の地位を一七八二条にいう「司法機関」に該当するとして同裁判官からの嘱託を受け入れ、これに基づき証人尋問を施行した米国裁判所の措置について、前記の観点から採り上げるべき違法ありということはできない。

(2) 本件嘱託にあたり前記要請事項6には(要旨)「尋問内容が伝聞にわたる場合にも(捜査のためのものであるから)許容されたい」旨記載されていることが明らかであるが、弁護人は、かかる要請をなしたこと及びこれに基づきなされた証人尋問の方法は違法であると主張する。

しかしながら、本件証人尋問の目的が第一次的に捜査のための証拠保全にあることからして伝聞事項を尋問内容に含ませることは必要であり、また右手続における伝聞を求める形式の尋問による証言内容が爾後公判の証拠として提出される場合は、要証事実との関係において伝聞とならない場合もあり、公判手続において、その観点から、及び伝聞に当り同意のない場合は排除することとして、適宜取捨選択すれば足りると考える。

従つて、右伝聞事項の尋問に関し、わが憲法上ないし刑事訴訟法上、受け入れ難い違法ありということはできない。なお、本件嘱託証人尋問調書中の伝聞性が問題となる部分の取扱いについては別に判断するとおりである。

(3) 本件嘱託における前記要請事項8には、(要旨)「証人尋問に関しては『ロツキード・エアクラフト社問題に関する法執行の相互援助のための手続』(以下「相互援助のための手続」と略称する)第七項に基づき、米国司法省において日本国政府(東京地方検察庁)を代理する者として選任される予定の連邦検事をして尋問を行い、また米国法令に関し意見を述べること及び尋問事項者に記載のない質問でも事件に関連する限りこれを行うことを許容されたく、かつ、東京地検検事が日本国の法令に関して意見を述べたり、証言拒否権に関する告知その他の手続に関する申立を行うこと、また証人に対し補充的質問を行うことを許容されたいこと」の旨記載されていること、本件証人尋問手続においては前記のとおり副執行官たる米国の検察官(主としてクラーク)が尋問を行い、意見を述べ、東京地検検察官はこれに立ち会い、同検事を補佐したが尋問等訴訟活動は行わず、別に宣誓のうえ供述書を提出する等の方法により種々意見を述べたことが認められる。

弁護人は、この点に関し、前記「相互援助のための手続」第七項は右のような手続の根拠とはなり得ず、異例な手続をとつたと主張し、その違法を主張するもののようである。

そこで検討するに、右「相互援助のための手続」は、その形式・内容自体に徴して明らかなように、日本国法務省と米国司法省との間で、いわゆるロツキード社関係事件の捜査に関し相互に援助することを確認して取り交した書面であり、その第一項には「当事者は、他方の国において行われることのある刑事上・民事上及び行政上の裁判又は審理に関する手続に関連してその国の司法当局により発せられる嘱託書による嘱託事項の迅速な実施を援助することにつき最善の努力をするものとする。」旨抽象的に規定するものである。そこで前記要請事項8においては、嘱託にかかる手続において証人尋問を直接担当すべき者として米国司法省から選任される連邦検事の地位を明らかにするため「相互援助のための手続」第七項を引用したものと解すべく、とくに同「手続」が、これら証人尋問手続に関する要請内容の根拠になるとする趣旨とは認められない。

そして右要請内容及びこれに対応する米国裁判所の前記証人尋問手続の関与者等施行状況を検討してみても、特段、わが憲法上ないし刑事訴訟法上受け入れ難いような違法ありとすべき事象を見出すことはできない。

(4) 弁護人は、米国における本件証人尋問手続において、嘱託の際の要請に基づき、嘱託事件の当該被疑者やその弁護人に反対尋問の機会を与えることなく行われたものであるから違法であると主張し、前記のとおり、本件では嘱託者である東京地裁裁判官による東京地検検察官の要請伝達により、嘱託事件の当該被疑者の弁護人に立会の機会を与えないで証人尋問が施行されたことが認められるが、右裁判官の伝達措置に際する判断(刑訴法二二八条二項に関するものを含む)が事案の性質に鑑み適法なものであつたことは前記のとおりであり、証拠保全手続の一環としての嘱託証人尋問である本件手続においては、当該被疑者ないしその弁護人に反対尋問の機会を与えなかつたことについて、前記の観点から注目すべき違法ありということはできない。なお、この点については証拠能力の問題ではなく信用性の問題であることは、別に論ずるとおりである。

第四章刑訴法三二一条一項三号の各要件充足について

一  刑訴法三二一条一項三号本文前段の「供述者が国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができない」場合に該当するかどうかについて

(一)(1)  弁護人は、刑訴法三二一条一項三号本文前段所定の「供述者が国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができないとき」との要件が充足されるためには、供述者が国外にいるだけでは足りず、本件調書を証拠として申請する検察官としては、供述者であるコーチヤン、クラツターの両名を証人として申請したうえ、米国当局に協力を求め、その出頭の確保に努力するなどして、また裁判所としても、証人召喚状の送達を嘱託し、なお、その来日に難点があるなら、場合により証人尋問の嘱託をするなどして、同人らの新たな証言を求めるため可能な手段を尽すべきことが要求されるところ、本件ではかかる手段が尽されているとはいえないから、本件調書には右の要件が充足されていないと主張する。

しかしながら、法は、同号本文前段で、死亡、精神若しくは身体の故障等、そのこと自体で直ちに公判準備又は公判期日での証言を不能ならしめる事由とともに、何らの制限もおかず、「供述者が国外にいるとき」との要件を掲記しているのであつて、このような規定の仕方及び供述者が国外にいるときは、裁判権を行使できる土地的限界の外にあつて、強制的に出頭、宣誓、供述させることができないことに鑑みると、法は、原則として、供述者が国外にいれば、そのこと自体をもつて同人に公判準備又は公判期日における供述を求めることができないとして、以前になされた供述の録取書面等を証拠として使用する必要性を認める立場をとつているものと解するのが相当である。ただし、国外にいる供述者が間もなくわが国に来ることが判明しているような場合、あるいは、求められれば任意にわが国に来て証言をする意思を有していることが明らかであるような特段の事情の存する場合は、直ちに公判期日等において供述することができないとはいえないから、本号所定の要件を充足しないと解する余地がある。そこで、本件においても、コーチヤン及びクラツターの両名の来日意思について後に(2)において検討するが、この点についての認定は、本件調書の申請者である検察官が右コーチヤンらに来日して証言する意思があるか否かを適宜の手段で確認したところによつてなせば足りるものというべく、検察官のなした調査になお疑問を容れる余地のある場合は格別、弁護人主張のようにつねに裁判所が供述者を証人として召喚する等の方法により自らその確認調査の任に当らなければならないとする何らの根拠も存しないと考える。

(2)  そこで検討するに、本件各記録、ことに東京地検検事堀田力作成の昭和五二年一〇月六日付「嘱託証人尋問における疎明資料に関する報告書」及び法務省刑事局長伊藤栄樹作成の同五三年一月二一日付「いわゆるロツキード事件調査について(回答)」と題する各書面によると、右コーチヤン、クラツターの両名は、いずれも米国に居住する同国民で、同五一年四月初・中旬及び同年五月初・中旬の二回にわたつて、東京地検検察官から本件に関する同国内での取調のため出頭を求められながらこれを拒絶し、さらに同五三年一月、公判裁判所から証人として出頭要請があつた場合には来日のうえ本件につき証言する意思があるかとの同庁検察官からの照会に対し、コーチヤンは、現在東京で訴訟が係属している事件(当裁判所で審理中の本事件を含むと解される。)に関連する事項(同人の日本での販売活動における役割)について米国司法省による捜査が行われている限り出頭を拒否する旨を回答し、なおその文面上、将来、証言のため来日する意思があるかどうかについても全く不明であり、クラツターの代理人であるエドワード・M・メドウインは、クラツターには証人として証言するため任意に渡日する意志は現在ない旨を回答していることが認められるところ、かかる経緯に鑑みれば、結局、本件はコーチヤン、クラツター両名につき来日証言の意思がある等前記特段の事情ある場合には当らないというべきである。

(二)  弁護人は、「供述者が国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができない」場合とは、かかる公判準備又は公判期日での証言を不能とする事態が供述当時予想されず、その後に生じた場合に限られるのであつて、供述者が当初から国外にいる場合、すなわちその供述者に対しては後日公判準備又は公判期日に証人として出頭のうえ証言することを期待しえないことが供述当時すでに予知されていたような場合を含まないと主張する。

しかしながら、文理解釈上弁護人の主張を支持する根拠は見出し難く(弁護人は、その主張のように解さないと同号本文前段掲記の他の事由との間に適用上の不均衡を生ずると主張するが、かかる適用上の結果の差違は、同号前段掲記の諸事由の性質の違いに起因するのであつて、「供述者が国外にいる」場合との要件をその他の事由同様後発的に生じた場合に限定して解釈すべき理由とはなりえない。)なお実質的に考察しても、前記(一)に示した本号の書面に関する証拠としての必要性の観点からして弁護人主張のような限定は付し得ない。弁護人は、供述者が当初から国外にいて、後に公判準備又は公判期日で反対尋問を受ける意思を有しない場合は、その供述について信用性の情況的保障を欠くから、かかる供述を録取した書面に同号所定の証拠能力を認めるべきではない旨主張するが、たとえば、捜査官が反対尋問の機会を奪う目的でことさら供述者を国外に去らせたうえで供述を録取し、あるいは同人が本邦に来るのを妨害するなどの行為をして反対尋問権の行使を不能ならしめたような場合は格別(本件がこのような場合にあたらないことはいうまでもない)、反対尋問を受ける意思がないことのみをもつて直ちに信用性の情況的保障がないとはいいえないのであつて(本号書面の信用性の情況的保障―特信性―については別に検討する)、当初から国外にいたこと自体を理由として本件調書が同号本文前段の要件を充足しないと解するのは結局失当というべきである。

(三)  以上のとおりであるから、本件調書が刑訴法三二一条一項三号本文前段所定の「供述者が国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができないとき」との要件を充足することは明らかである。

二  刑訴法三二一条一項三号の「犯罪事実の存否の証明に欠くことができないもの」(同号本文後段。以下これを不可欠性の要件という)に該当するかどうかについて

(一)  まず、右不可欠性の意義について考えるに、ここで証明の対象たる「事実」には犯罪事実(の存否)の認定に必要な間接事実(犯罪に至る経緯に関するものも含む)を包含するものと解すべく(法は「犯罪事実の存否の証明に欠くことのできないもの」と規定するのであつて、直接事実のみに限る趣旨とは解されない。)、「証明に欠くことができない」との点については、種々の事実の存否について攻撃防禦の争いがあり、事実認定、心証形成の過程が複雑にわたるような事案においては、問題となる書面の供述者のその事案において占める地位の重要性、その事案に関して有する体験・認識が固有の証明力を有するか等の観点から、裁判所が最終的な事実判断に到達する過程においてその供述が実質的に重要な寄与をなすべきものと認められる場合、これを「欠くことのできないもの」と評価すべきであつて、他に同種事実の認定のための証拠が存することは直ちには右評価の障碍にならないものと解すべきである。

右は実体的真実の発見を任務とする裁判所の事実認定のあり方から必然的に要求されるものといわなければならない。

弁護人は、不可欠性の要件の充足の有無は当該証拠を除外すると公訴事実の全部又は一部の立証手段を欠くに至るか否かによつて決すべきである旨主張するところ、かかる見解は、右に述べた理由により当裁判所の採用しないところである。

ところで、弁護人は、不可欠性の要件の充足の有無の判断はその性質上訴訟のほぼ最終段階になって初めてなしうることであつて、現段階では未だその時機は熟していないと主張するが、本来訴訟手続における判断は、それぞれの時点において、その時の実体形成の状態等訴訟の発展に即しつつなされるべきものであつて、右不可欠性の判断についても原則としてこれと別異に解する理由はない。のみならず、本件訴訟の現段階のように、検察官立証の相当部分の取調をすでに了し、残余のほとんども取調請求済みで、未だ採否未定のものに関しても、その立証趣旨を勘案するなどすれば、取調済みの証拠の内容にあわせて、検察官の全立証(計画)の具体的内容がほぼ明らかになつたといえるところに到達した場合にあつては、ここで右の判断をするについて十分の検討資料ありというべく、現在不可欠性の要件の充足の有無の判断をすることは十分に可能であると考える。

(二)  そこで、以下には、右に示した基準に従つて、本件調書が不可欠性の要件を充足するか否かの点につき具体的に検討することとする。

(1) 本件各調書の立証事項の概要は、検察官請求証拠目録ないし冒頭事陳述によると、コーチヤンの証言調書については、同人は本件当時ロツキード社の社長として同社製L一〇一一型航空機の全日空等本邦の航空会社に対する売込活動に携わつていた者であるところ、同人のいわばロツキード社側からみた右売込活動の状況に関する認識、ロツキード社の経営状態と右売込の同社経営に占める重要性等の本件の経緯に関する事項、同人が被告人檜山、同伊藤、同大久保との間で被告人田中に対し本件三億円の金員を供与する旨共謀し、その調達をクラツターに指示したという事項、被告人大久保から別途一億二〇〇〇万円の支払を要求され、右金員を同被告人に引き渡すようクラツターに指示したという事項及びこれらに関連する事項などであり、クラツターの証言調書については、同人がロツキード社の関連会社であるロツキード・エアクラフト・(アジア)・リミテツド(以下「LAAL」という)の社長兼東京営業所代表者として本件当時同社のための資金を取扱つていた状況に関する事項、前記五億円及び一億二〇〇〇万円の各金員の入手及び交付を取扱つた状況に関する事項、右各金員についてのものを含む同営業所の会計処理に関する事項及びこれらに関連する事項などであるが、これらの事項は、あるいは本件公訴事実を直接立証し、あるいはその立証に必要な重要間接事実であることが明らかであつて、前記(一)で示した基準に照らし、これらが不可欠性判断の際に問題となる証明対象たる「事実」にあたることは明らかである。

(2) そこで、これらの事実の存否を立証するにつき本件調書が「欠くことのできない」ものであるかどうかを前記(一)で示した基準によつてさらに検討する。先ず、コーチヤンの証言調書につき、検察官請求証拠目録記載の立証事項中、コーチヤンと被告人大久保、同檜山、同伊藤との右贈賄の共謀に関する事項について、現在証拠申請がなされている右被告人大久保らの検察官に対する供述調書に関する検察官請求証拠目録の立証事項中にはこれと同様の事実に関する項目が掲記されているうえ、右事実の性質にも照らし、将来当公判廷においてかかる事実の存否をめぐり右被告人らの供述のなされることが当然予想され、本件調書がこれら立証事項において将来証拠となり得る被告人らの供述ないし検面調書と密接な関連あるものとなる可能性があると認められる。なお、被告人大久保に対する議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件の公訴事実中、同被告人がコーチヤンと一億二〇〇〇万円の金員の授受についての相談をしたという点に関するコーチヤン証言についての立証事項及びクラツターが右の金員を同被告人に引き渡したという点に関するクラツター証言についての立証事項にも同様の問題があり、また本件五億円の金員を丸紅株式会社職員に引き渡したとの点に関しては、野見山国光、松岡克浩の両名がすでに当公判において証人として証言し、なお現在右両名の検面調書が証拠として申請されているのであるから、これらの点に関するクラツター証言の立証事項についても同様の問題が考えられるところである。

ところで、たとえば前記贈賄の共謀の点に関しては、コーチヤンと当時丸紅株式会社の役員であつた三名の被告人らとは本件公訴事実においてともに贈賄の共謀に参画した共犯とされている者ではあるが、本件起訴状、検察官冒頭陳述書記載の右共謀の内容についてみると、コーチヤンが本件五億円の金員を調達し、この点に関してクラツターに指示を与えて丸紅側への金員交付に当らせ、他方、右被告人らが被告人田中に働きかけ、さらに右金員を供与する行為をするというもので、その相互の役割は明確に分担され、同一の具体的行為をともに遂行するという関係にあつたものではなく、また、現にそれぞれの分担の実行については他方が関与することもなかつたとされているのであり、なお右冒頭陳述書記載の本件の全経緯によると、本件共謀等も結局L一〇一一型航空機の前記売込活動の過程で、その一環として行われたとされているところ、コーチヤンの代表するロツキード社と右三名の被告人らが当時役員をしていた丸紅株式会社とは、後者が前者の代理店であつたなどの関係があり、右の売込活動に当つても協力する態勢にあつたとはいえ、もとより両社は別個の法人で、それぞれの立場で独自に右活動を遂行する関係にあつたとされ、結局かかる諸事情に鑑みると、コーチヤンと丸紅株式会社側の右三名の本件被告人らは、その役割などにつきその間にはそれぞれ明確に独自性があり、その本件において占める地位には明らかな相違があるというべく、しかも前記冒頭陳述で右の両者それぞれ果すことを約し、かつ、現にそれを遂行したとされている役割に関する事実がいずれも本件贈賄の共謀・実行にとつて本質的要素を構成していることに照らし、右両者のいずれの地位も本件において独自の重要性を有すると考えられる。そうして、かかる地位にあるコーチヤンの体験や認識は、右三名の本件被告人らの供述をもつては代え難い、それ自体固有の証明力を有しているというを妨げないところ、なお本件で右のような意味でコーチヤンと同様の地位を占めていると評し得る者は他には存在せず、また同人の供述として証拠となし得るのは本件調書のほかにはないこともまた明らかなところである。そこでかかる事情を前記(一)で示した基準に照らしてみると、とくに本件のように右共謀の点も含め公訴事実の存否をめぐつて攻撃防禦の争いがあり、事実認定・心証形成の過程が複雑にわたる事案にあつては、かかるコーチヤンの本件における地位の重要性、その供述の固有の証明力等に照らし、本件調書のうち右立証事項に関連を有する部分が本件事実認定に重要な寄与をなすべきものと認められ、不可欠性の要件を充足するものであることを十分肯認することができる。なお、(1)に示したコーチヤン証言調書中のその他の立証事項及びこれに関連する事項についても、右に述べたところに準じ、コーチヤンのロツキード社社長としてL一〇一一型機の売込活動に携わつていた地位、売込活動におけるその体験・認識の固有の証明力等の観点から、調書の当該関連部分は事実認定に重的な寄与をなすべきものと認められ、不可欠性の要件を充足するものということができる。

以上コーチヤンについて述べたところはクラツターの場合にも妥当し、そのLAAL社長兼東京営業所長としてL一〇一一型機の売込活動に関与し、被告人大久保に対する一億二〇〇〇万円の引渡や丸紅職員に対する五億円の引渡に直接関与したという点において、クラツターの本件における地位の重要性、その供述の固有の証明力を肯認すべく、事実認定に重要な寄与をなすものと認められ、その他の(1)に示したクラツター証言調書の立証事項についても同様に解せられるから、同調書の当該関連部分は不可欠性の要件を充足するものと考える。

結局、コーチヤン、クラツターの各証言調書の(1)に示した各立証事項及びこれに関連する事項についての供述記載部分は、いずれも不可欠性の要件を充足するものというべきである。

(三)  ところで、弁護人は、本件被告人らに対する各起訴が被告人檜山に対する議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件を除き、本件証人尋問の終了した昭和五一年九月二九日より一、二か月前にすでになされていることに照らし、検察官は本件嘱託証人尋問がなくともその他の証拠によつて右各起訴にかかる犯罪事実を証明できなければならない筋合であるから、本件調書に不可欠性の要件は認められないことはこの点においてすでに明らかであると主張するが、不可欠性の要件を前記(一)で判断したように解する以上、かかる事情の存在をもつて直ちに右要件の充足を否定するに足りる事由にあたるということはできないから、弁護人の右主張は採用しない。

なお、本件調書中の証言には、個々に、その内容からして前記(一)の基準に照らし不可欠性の要件を具備しないと認められる部分があり、当該部分はその理由により却下すべきものとして、別表(二)中に示してある。

三  刑訴法三二一条一項三号但書の「その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるとき」との要件(以下「特信性の要件」という)を充足するかどうかについて

同号但書の特信性ある場合とは、当該供述に虚偽性の介入する余地が乏しいと認められるような情況の存すること、すなわち、供述の信用性が情況的に保障されていることを要するものというべきところ、かかる要件の存否については、結局、各事案毎にその供述の形式、態様、供述のなされた事情等外部的諸情況のほか必要に応じ供述内容までを含め具体的に検討して判断すべきものと解するのが相当である。そこで検討するに、本件各証拠によれば、

(一)  本件証人尋問手続は、前記のとおり、米国の裁判所において、同国の訴訟手続関係法規に則り施行されたものであり、執行官として本件手続を主宰した前記チヤントリーは、同国の法曹資格を有し、かつ、以前同国カリフオルニア州上級裁判所裁判官の地位にあり、本件尋問当時も指名があれば同州裁判官としての権限を行使する資格を有していた同州退任判事であつて、現に同国の尋問規則に従つて手続を進め、ことに証人の代理人の異議申立に対しては公平な立場から裁定を下し、総じて公正かつ公平な立場に立つて手続を主宰しその実施に当つたことは本件調書自体に徴して明らかであること

(二)  チヤントリーは、証言を求めるに際し、証人らに宣誓をさせ、かつ、本件手続において虚偽の供述をすると偽証罪に問われることのあることを同人らに告知していること

(三)  また、本件手続には、弁護士である証人らの代理人がつねに立ち会つて副執行官の尋問に対し、しばしばその尋問方法などにつき異議を申し立て、証人に対し証言内容について適宜助言するなどしており、その活動と効果について具体的に吟味すれば右代理人の立会は証言の信用性を担保するように作用していると認められること(この点につき、証人の代理人に対して、本件被告人らのための反対尋問に代るほどの役割を期待しえないことは弁護人の主張するとおりであるが、当時証人らのおかれていた立場にも鑑み、右代理人らは後日証人が本件証言について偽証罪に問われる事態を回避することをその活動の主要な目的としていたと認められるところ、本件調書の内容自体に徴し、右代理人らはそのような目的を達するため、あるいは誘導誤導等によつて証人が虚偽供述をする結果となることを防止しようとし、あるいは記憶の確実性の有無を明確に区別するよう証人に注意するなどして虚偽供述発生の防止に努めていることなどが認められ、結局、右代理人立会の事実は、結果として本件証言の信用性の確保にかなり寄与し、ひいてはその特信性の認定にもプラスの影響を与えるものであることが明らかというべきである。)

(四)  証人らの供述の態様をみても、前記(三)のとおり尋問に対する代理人の異議や助言等とも相俟ち、証人らは記憶の有無や現に記憶の存する事項と推測にわたる事項との別を明確に意識して証言していることが認められ、尋問の過程で証人らは客観的な資料を示され、これらによつて、あるいは自己の記憶の正確性を確認し、あるいはその記憶を喚起して(もとよりこれらによつても記憶を喚起しなかつた場合はその旨供述している)証言をしていることが認められ、その供述自体からも供述内容の正確性・信用性はかなり高度であることがうかがわれること

(五)  本件調書は、公認速記者により一問一答式で発言どおり正確に録取されたものであり、なお証人らは尋問終了後これを閲読して不正確又は誤りと認めた箇所を自ら訂正したうえ、その正確性を承認してみずからこれに署名していること

(六)  ところで、本件証人尋問に際しては、前記のとおり、証人らに対して東京地検検事正ないし検事総長によりいわゆる刑事免責(起訴猶予に関する意思表示)が与えられていたものであるが、かかる処置が本件証言の任意性を疑わせる事由となることはなく、また右処置には本件調書の証拠能力を失わせるような違法性がないことは別に判断したところである。その際に論じたように、いわゆる刑事免責は偽証の制裁とも相俟つて真実の証言を獲得する手段として米国法下で活用・育成されている制度であり、本件証人らをも含め証人尋問手続関係者らはいずれも米国法上の刑事免責の制度に慣熟している者であることにも鑑みれば、本件で右のような免責の処置が講ぜられたことは、前記(二)のとおり証人が宣誓し、偽証の警告下に証言することを可能ならしめるものとして、むしろ本件調書の特信性を支える一事由と考えることができること(なお本件証言に際し、クラツターは米国法上の刑事免責を得ており、コーチヤンは米国法上の自己負罪拒否特権を行使しないで証言したという事情があるが、これらは格別右判断の結論に影響しない。)

の諸点を認めることができる。これらの点を総合考慮するならば、本件調書には、その供述過程の全情況に照らし、前記のような信用性の情況的保障が高度に存在することを認めることができるから、本件調書は特信性の要件を十分充足しているものというべきである。

なお、弁護人は、本件尋問手続にはわが国の検察官が立ち会い、副執行官らに随時助言を与えた形跡があるのに、その相手方当事者である被疑者やその弁護人には立ち会つて反対尋問をする機会や、反対尋問事項書提出の機会が与えられていないのであつて、かかる一方的な手続のもとになされた供述に特信性を認めることはできず、また、そもそも本件証人らは、後日わが法廷に出頭して証言すること、すなわち反対尋問を受けることを拒絶する意思のもとに証言をなしたものと解されるところ、このような証言は、いわば無責任な供述であつて、証明力において著しく劣り、さらには特信性をも欠くものと解すべきである旨主張する。

しかしながら、前記(一)ないし(六)の全情況に照らして証人らの証言の態様をみるに、本件被告人側の反対尋問を予想していないために無責任供述に堕したと認めるべき徴表は見出し難く、また右全情況により実質的に高度の信用性の情況的保障の存在が肯定される以上、その証言に関し本件被告人側に反対尋問の機会が与えられなくても、伝聞証拠禁止の例外としての刑訴法三二一条一項三号にいう特信性の要件は十分充たされていると考えられる(従つて憲法三七条二項違反の問題も生じない。)。なお、刑訴法三二一条一項二号前段の要件によつて証拠能力を認められる検察官面前調書が、供述者の宣誓、偽証の制裁警告もなく、供述者の立場からこれを補佐・助言する弁護士の立会もなく、公正な第三者の手続主宰の下でもなく、ただ公益の代表者として信頼される検察官と供述者との対話であることのみを前提情況としているのに比し、右(一)ないし(六)の各事実による担保の方が、特信性の観点からしてより手厚く供述の信用性を情況的に保障しているというべきである。

以上によつて本件調書が刑訴法三二一条一項三号但書所定の特信性の要件を充足することについては、結局疑いを容れる余地がないと判断する。もとより、本件調書の具体的な信用性については、それが本件被告人側の反対尋問を経ていないことを考慮に入れ、その供述内容自体を精査し、他の証拠とも比較検討するなどしたうえでなければ結論を出すことができないのであるが、これはすでに証拠能力に関して検討すべき事柄の範囲をこえ、まさに証明力の問題であるというべく、その検討は、本件訴訟の今後の段階に委ねられるべきものである。

第五章採用部分と却下部分について

一  以上の検討を経て、当裁判所は、本件証人尋問調書中、主文一項掲記の部分を証拠として採用した。そしてその記載部分の立証事項は検察官請求証拠目録甲一154ないし164の立証事項(冒頭陳述番号、立証趣旨の要旨)欄記載の事項及びこれに関連する事項である(関係被告人もそれによつて自ら明らかである。たとえば甲一155コーチヤン証言調書第二巻・立証事項〈17〉に関する記載部分については、冒頭陳述番号第六、三、1(三)に関し、立証趣旨と照らして被告人大久保のみの関係証拠である。)。

二  しかしながら右採用部分記載の中には、コーチヤン、クラツターらが他人から得た情報に関するものがかなりあり、これらは要証事実の如何によつては伝聞証拠となる可能性もあるものであるところ、当裁判所は、前記のような各立証事項に関連して「コーチヤン、クラツターらの情報内容についての認識」自体を要証事実とする等の理由で伝聞証拠に当らないと考えられるものを採用したのである。

たとえば、甲一155コーチヤン証言調書第二巻(原文)一一三頁ないし一一五頁、一四六頁ないし一五一頁中には、コーチヤンがL一〇一一型機の全日空に対する売込活動中、被告人大久保その他の者から得た情報内容に関する供述が記載されているが、同供述部分に関する立証事項は甲一155立証事項〈8〉で、すなわち、立証の目的は、コーチヤン及び丸紅株式会社が全日空に対しL一〇一一型機を売り込むための活動状況であるから、これに関する種々の情報内容についての(情報内容たる事実の真実性はしばらく措き)「コーチヤンの認識」もまた右具体的な売込活動の動機を形成し、活動の主観的側面に関連する等の理由で関連要証事実となり、この観点からすればコーチヤンの他人から情報を得たことに関する供述は伝聞に当らない。また、右供述のうち、被告人大久保から情報を得たことを内容とする部分についても前記立証事項〈8〉に関連し、情報内容についての「被告人大久保の認識」が前同様の理由で要証事実となり、その関係でも右供述は伝聞に当らない(もとより全被告人との関係において)筋合となる。

その他同種の供述につき、概ね右と同様の理由で要証事実(立証事項)を検討することにより伝聞証拠ではないことが明らかになるものがあり、これは検察官請求証拠目録甲一154ないし164の立証事項欄記載の事項自体によつて明らかであるが、念の為、それぞれの供述部分と要証事実との関係を別表(三)のとおり示すこととする。

なお、本件証人尋問調書には、相当数のいわゆる「副証」が添付されて、検察官はこれを証言の一部をなすものあるいは証言の趣旨を明確にし、信用性を裏付ける等の理由により証人尋問調書と一体をなものとして請求している。右副証は、本件証人尋問に際し尋問者から証人らに示してその供述を求めた(書面の意義が証拠となる)証拠物であるが、当裁判所は、証言内容を検討して、それらが証言内容の一部をなし、あるいはこれを補足するものと認められる場合、あるいは証言内容の一部を形成・補足するものではないが、証言の趣旨を明確にし理解を助ける限定において必要な場合に限り、本件証人尋問調書と一体をなすものとして採用した。右の趣旨で採用した分については別表(一)に示したとおりであり、独立の証拠として採用したものではないこと勿論である。

そして副証については右のように証言の一部をなすと認められるかどうかについて慎重な吟味が肝要であり、この観点及びそのような証言の一部としても、証言の趣旨を明らかにするものとしても立証事項に照らし証拠とする必要性があるかどうかの観点等から検討して、かなりの副証部分についての証拠調の請求を却下することとした。これは別表(二)中に示すとおりである。

三  なお、本件証人尋問調書中、主文二項掲記の部分(すなわち一項で採用された以外の部分)につき証拠調の請求を却下した。その却下の理由、は個々に別表(二)の却下理由欄に記載したとおりである。

却下部分のうち、副証関係については前述のとおりであり、その他、証言内容自体刑訴法三二一条一項三号の前記不可欠性の要件を欠くもの(同表番号1〔甲一154コーチヤン証言調書第一巻〕の却下部分等)、立証事項に対する関連性が薄く証拠とする必要性がないものなどである。

なお、同表番号8(甲一161クラツター証言調書第四巻)のうち二〇九頁二〇行から二二四頁二二行までの証言部分はクラツターがコーチヤンの供述を内容とする証言をなしており、その要証事実(立証事項〈7〉と関連し、その調達した金員の性質)との関係において伝聞証拠として許されないかどうかの判断の対象となるものであるが、刑訴法三二四条二項、三二一条一項三号の適用があり得る場面であると解するところ、右の意味におけるコーチヤンの原供述について同号の不可欠性の要件、さらには本件クラツターの証言内容としても同法三二一条一項三号の不可欠性の要件に欠けると判断し、同証言部分の証拠調請求を却下することとした。同表番号3(甲一156コーチヤン証言調書第三巻)のうち、二四一頁二三行から二四六頁一六行まで、二五一頁一行から同頁一三行までの証言部分もコーチヤンがクラツターの供述を内容とする証言(立証事項〈10〉―五億円の支払いについての報告に関する)をなすものであるが、右の場合と同様の理由により、クラツターの原供述としても、コーチヤンの証言についても、同法三二一条一項三号の不可欠性の要件を欠くと判断して却下した。なお、同表番号5(甲一158コーチヤン証言調書第五巻)のうち五四二頁一七行から五四四頁二四行までの証言部分、同表番号9(甲一162クラツター証言調書第五巻)のうち三八二頁一四行から三八三頁末行までの証言部分、同表番号11(甲一164クラツター証言調書第七巻)のうち六〇九頁一行から六一七頁三行までの証言部分についても右に準ずる理由で不可欠性の要件を欠くと判断したものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 岡田光了 永山忠彦 木口信之)

別表(一)

採用部分一覧表

番号

請求証拠番号

採用部分

1

甲一154

(コーチャンに対する証人尋問調書 第一巻)

冒頭から一三頁一九行まで

一五頁四行から同頁一〇行まで

二一頁一行から二三頁一〇行まで

2

甲一155

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第二巻)

冒頭から三七頁二二行まで

四二頁三行から同頁一六行まで

五二頁末行から五三頁一六行まで

六九頁二〇行から七二頁二行まで

七九頁七行から八〇頁一行まで

八一頁二行から八六頁四行まで

八八頁一一行から一二五頁五行まで

一二九頁二二行から末尾まで

副証一〇A、一一、一二、一五、一六(ただし副証一五については証言の趣旨を明らかにするためのみ)

3

甲一156

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第三巻)

一九一頁二〇行から二〇八頁七行まで

二一〇頁一五行から二一一頁四行まで

二一五頁一〇行から二四一頁二二行まで

二四六頁一七行から二五〇頁末行まで

二五一頁一四行から二八四頁一六行まで

三二三頁六行から末尾まで

副証一七ないし二二(ただし副証二二については証言の趣旨を明らかにするためのみ)

4

甲一157

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第四巻)

冒頭から三五五頁一〇行まで

三九四頁一四行から四〇六頁三行まで

四一七頁三行から四二二頁二行まで

四二四頁七行から末尾まで

副証二四、二四A、五〇A、五〇B(ただし副証五〇A及び五〇Bは手続関係を明らかにするためのみ)

5

甲一158

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第五巻)

冒頭から五一〇頁九行まで

五一三頁末行から五二七頁二〇行まで

五三三頁二一行から五四二頁一六行まで

五五六頁一七行から末尾まで

6

甲一159

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第六巻)

冒頭から五五八頁二〇行まで

五六八頁一行から五七一頁五行まで

五八〇頁七行から末尾まで

副証五四

7

甲一160

(クラツターに対する証人尋問調書 第三巻)

全部

副証二七、二七A、二七B

8

甲一161

(クラツターに対する証人尋問調書 第四巻)

冒頭から二〇九頁一九行まで

二二四頁二三行から二五五頁二〇行まで

三〇六頁二一行から末尾まで

副証二、三、二七D、二八、二九

9

甲一162

(クラツターに対する証人尋問調書 第五巻)

冒頭から三一五頁二四行まで

三一九頁一九行から三五三頁一三行まで

三六二頁七行から三六六頁一七行まで

三六九頁一行から三八二頁一三行まで

三八四頁一行から三八五頁一六行まで

四四八頁二二行から末尾まで

10

甲一163

(クラツターに対する証人尋問調書 第六巻)

冒頭から四五二頁四行まで

五六七頁一行から末尾まで

副証一八

11

甲一164

(クラツターに対する証人尋問調書 第七巻)

冒頭から五八四頁五行まで

六〇一頁一四行から六〇五頁九行まで

六一七頁四行から六二三頁末行まで

六三二頁一六行から末尾まで

別表(二)

却下部分一覧表

番号

請求証拠番号

却下する部分

却下の理由

1

甲一154

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第一巻)

一三頁二〇行から一五頁三行まで

一五頁一一行から二〇頁末行まで

二三頁一一行から末尾まで

いずれも不可欠性の要件なし

副証一、一A、一B、一C、一三、一四

証言の一部をなしていると認めるには、疑問があり、且つ必要性なし

2

甲一155

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第二巻)

三七頁二三行から四二頁二行まで

四二頁一七行から五二頁二四行まで

五三頁一七行から六九頁一九行まで

七二頁三行から七九頁六行まで

八〇頁二行から八一頁一行まで

八六頁五行から八八頁一〇行まで

一二七頁三行から一二九頁二一行まで

いずれも立証事項に対する関連性薄く必要性なし

副証二

証言の趣旨を明確にし、あるいは証言の信用性を裏付けるものとして請求されているが、その観点から必要性なし

副証三ないし一〇、一〇B

いずれも立証趣旨に対する関連性薄く、必要性なし

3

甲一156

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第三巻)

冒頭から一九一頁一九行まで

第一巻添付の副証一、一A、一B、一C、一三、一四に関する証言であり、前記番号1と同様の理由による

二四一頁二三行から二四六頁一六行まで

二五一頁一行から同頁一三行まで

いずれも伝聞であり且つ刑訴法三二四条二項、三二一条一項三号に照らし不可欠性の要件なし

4

甲一157

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第四巻)

三七四頁一〇行から三九四頁一三行まで

四二二頁三行から四二四頁六行まで

いずれも立証事項に対する関連性薄く、必要性なし

副証二五ないし二八

いずれも立証事項に対する関連性薄く、必要性なし

副証二九ないし三九

いずれも証言の趣旨を明確にし、あるいは証言の信用性を裏付けるものとして請求されているが、その観点から必要性なし

副証四七ないし五〇

いずれも証言の一部をなしているとは認の難く、且つ、証言の趣旨を明確にし、その信用性を裏付けるものとしても、必要性なし

5

甲一158

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第五巻)

五一〇頁一〇行から五一三頁二四行まで

立証事項に対する関連性薄く、必要性なし

五四二頁一七行から五四四頁二四行まで

伝聞であり、且つ刑訴法三二四条二項、三二一条一項三号に照らし不可欠性の要件なし

副証五二

証言の趣旨を明確にし、あるいは証言の信用性を裏付けるものとして請求されているが、その観点から必要性なし

副証五三

明示には請求されていないが、副証五二と同様の観点から必要性なし

6

甲一159

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第六巻)

五五八頁二一行から五六七頁末行まで

五七一頁六行から五八〇頁六行まで

いずれも立証事項に対する関連性薄く、必要性なし

7

甲一160

(クラツターに対する証人尋問調書 第三巻)

副証二七C

証言の趣旨を明確にし、あるいは証言の信用性を裏付けるものとして請求されているが、その観点から必要性なし

8

甲一161

(クラツターに対する証人尋問調書 第四巻)

二〇九頁二〇行から二二四頁二二行まで

伝聞であり、且つ、刑訴法三二四条二項、三二一条一項三号に照らし、不可欠性の要件なし

二七八頁一六行から二八三頁二〇行まで

立証事項に対する関連性薄く、必要性なし

副証二七E

証言の趣旨を明確にし、あるいは証言の信用性を裏付けるものとして請求されているが、その観点から必要性なし

9

甲一162

(クラツターに対する証人尋問調書 第五巻)

三一五頁末行から三一九頁一八行まで

三五三頁一四行から三六二頁六行まで

三六六頁一八行から三六八頁末行まで

四二九頁一行から四三二頁五行まで

いずれも立証事項との関連性薄く、必要性なし

三八二頁一四行から三八三頁末行まで

伝聞であり、且つ、刑訴法三二四条二項、三二一条一項三号に照らし、不可欠性の要件なし

副証四、五、五A

いずれも証言の趣旨を明確にし、あるいは証言の信用性を裏付けるものとして請求されているが、その観点から必要性なし

副証一

明示には請求されていないが、副証四、五、五Aと同様の観点から必要性なし

10

甲一163

(クラツターに対する証人尋問調書 第六巻)

四八二頁一五行から四八五頁一〇行まで

立証事項に対する関連性薄く、必要性なし

11

甲一164

(クラツターに対する証人尋問調書 第七巻)

五八五頁一九行から六〇一頁一三行まで

六〇五頁一〇行から六〇八頁末行まで

六二四頁一行から六三二頁一五行まで

いずれも立証事項に対する関連性薄く、必要性なし

六〇九頁一行から六一七頁三行まで

伝聞であり、且つ、刑訴法三二四条二項、三二一条一項三号に照らし、不可欠性の要件なし

副証七、三八、四二、四五ないし五二

いずれも証言内容の一部をなしているとは認め難く、且つ、証言の趣旨を明確にし、その信用性を裏付けるものとしても必要性なし

副証六九

立証事項に対する関連性薄く必要性なし

別表(三)

番号

請求証拠番号

関連立証事項及び該当証言部分

要証事実

関係被告人

1

甲一154

該当分なし

2

甲一155

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第二巻)

立証事項〈4〉に関連し、一四三頁ないし一四五頁、一五七頁ないし一五九頁中、L一〇一一型航空機の売込活動における小佐野賢治の役割及び右活動についての情報並びに情報獲得経路等に関する供述部分

上記の小佐野の役割や情報内容、及びその獲得経路に関するコーチヤンの認識

立証事項〈7〉に関連し、八九頁ないし九三頁中、児玉から情報を得たことを内容とする供述部分

上記情報内容に関するコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈8〉に関連し、一一三頁ないし一一五頁、一四六頁ないし一五一頁中、他人から情報を得たことを内容とする供述部分 上記の情報内容に関するコーチヤンの認識及びその根拠

上記のうち、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分については、その情報内容についての同被告人の認識

立証事項〈10〉に関連し、一三三頁、一三四頁中、新聞紙等で情報を得たことを内容とする供述部分

上記報道内容に関するコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈13〉に関連し、一三七頁、一三八頁中、被告人大久保から報告を得たことを内容とする供述部分

上記の報告内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈14〉に関連し、一三八頁、一三九頁中、他人から情報を得たことを内容とする供述部分

上記情報内容に関するコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈15〉に関連し、一五六頁、一五七頁中、被告人大久保から報告を受けたことを内容とする供述部分

上記の報告内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈17〉に関連し、一六九頁ないし一七八頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関するコーチヤンの認識及びその根拠並びに被告人大久保の認識及びその根拠

大久保

3

甲一156

(コーチャンに対する証人尋問調書 第三巻)

立証事項〈1〉に関連し、一九六頁、一九七頁中、被告人大久保から報告を得たことを内容とする供述部分

上記の報告内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈2〉に関連し、二〇一頁ないし二〇七頁、二三四頁二三五頁中、他人から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関するコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈3〉に関連し、二一六頁ないし二二八頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

右の被告人大久保の認識の根拠

大久保

立証事項〈7〉に関連し、二四七頁ないし二五〇頁、二六二頁ないし二六五頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈15〉に関連し、三二八頁ないし三三五頁中、L一〇一一型航空機売込活動関係の情報伝達経路に関する供部述分

上記の事項に関するコーチヤンの認識

4

甲一157

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第四巻)

立証事項〈1〉に関連し、三三八頁ないし三五五頁中、L一〇一一型航空機売込活動関係の情報伝達経路に関する供述部分

上記の事項に関するコーチヤンの認識

立証事項〈2〉に関連し、三五二頁、三五三頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈3〉に関連し、三九四頁ないし四〇六頁中、ID社及びシグ・カタヤマのロツキード社の販売活動における役割本件仮装契約の内容、ID社への報酬支払等に関する供述部分

上記の各事項に関するコーチヤンの認識

5

甲一158

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第五巻)

立証事項〈1〉に関連し、四三八頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈2〉に関連し、四四五頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈3〉に関連し、四五八頁ないし五一〇頁中、他人から得た情報に関する供述部分

上記の情報内容に関するコーチヤンの認識

立証事項〈4〉に関連し、四五四頁ないし四五八頁中、被告人大久保の報告を内容とする供述部分

上記報告内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

6

甲一159

(コーチヤンに対する証人尋問調書 第六巻)

立証事項〈1〉及び〈2〉に関連し、五八九頁ないし五九五頁中、被告人大久保の言動、報告を内容とする供述部分

上記の各立証事項掲記の内容に関する被告人大久保の認識並びにコーチヤンの認識及びその根拠

立証事項〈3〉に関連し、五八一頁ないし五八六頁中、ロツキード社のL一〇一一型航空機売込活動における小佐野の役割を内容とする供述部分

上記の事項に関するコーチヤンの認識

7

甲一160

該当分なし

8

甲一161

(クラツターに対する証人尋問調書 第四巻)

立証事項〈2〉に関連し、一六三頁ないし一六七頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関する被告人大久保の認識

大久保

立証事項〈3〉に関連し、一八四頁ないし一九〇頁中、コーチヤンから情報を得たことを内容とする供述部分

上記の情報内容に関するコーチヤンの認識

大久保

立証事項〈4〉に関連し、一九八頁ないし二〇一頁中、被告人大久保から被告を受けたことを内容とする供述部分

上記報告内容に関する被告人大久保の認識並びにクラツターの認識及びその根拠

大久保

立証事項〈5〉及び〈8〉に関連し、二四二頁中、被告人大久保から情報を得たことを内容とする供述部分

上記情報内容に関する被告人大久保の認識並びにクラツターの認識及びその根拠

9

甲一162

(クラツターに対する証人尋問調書 第五巻)

立証事項〈1〉に関連し、三二九頁、三三六頁、三三七頁、三四三頁、三四四頁、三七七頁中、他人から情報を得たことを内容とする供述部分

上記情報内容に関するクラツターの認識及びその根拠

立証事項〈3〉に関連し、三八一頁ないし三八四頁中、児玉に対する手数料の増額の経緯に関する供述部分

上記内容に関するクラツターの認識

10

甲一163

(クラツターに対する証人尋問調書 第六巻)

立証事項〈2〉に関連し、五七〇頁ないし五七四頁、五七九頁中、コーチヤンから情報を得たことを内容とする供述部分

上記情報内容に関するコーチヤンの認識

11

甲一164

(クラツターに対する証人尋問調書 第七巻)

立証事項〈1〉に関連し、六〇二頁中、小佐野に対する贈与についてのロツキード社の会計監査に関する供述部分

上記事項に関するクラツターの認識

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